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エピローグ
優は放課後、文芸部の部室で机に突っ伏していた。空が曇っているせいか、気圧が低いせいなのか。優は、とにかくやる気が起きなかった。
空と彼のご両親はあの出来事の翌日、お別れのあいさつに来た。空は私の両親に顔を真っ赤にしながらお辞儀をした。そして去り際に、私に対して小さく手を振ったのだった。
その様子を思い返していると、いきなり肩を叩かれた。突然思考を遮られ、驚いて顔を上げると顧問の先生が居た。
「寝不足かい?」
「……いいえ」
「そうか……。あまり無理するんじゃないぞ」
「えーと…………。無理っていうのは?」
「ん? 優は、あの長編を仕上げるために徹夜したんじゃないのか?」
「あ、違います違います」
それと『アレ』はお蔵入りにしました、と優は告げた。
「え! そうなのか? 先生は良いと思っていたんだけどなぁ、『宿借りの子』。とある転校生の〈成長〉を描いた心温まる〈感動〉ストーリー、かなり良い話だと思うんだけどな」
「……〈成長〉とか〈感動〉っていうテーマが、ダメなんです。なんか、実際に見ると違う気がして」
「実際に見ると……? そっ、そうなのか???」
「はい。とりあえず今はお蔵入りにします。私にはまだ理解できないことが多かった」
——テーマを考え直します。
優は顧問にそう伝えると、足早に部室を出た。
そして家に帰る途中のコンビニでサイダーを買うと、ごくりと一口飲んだ。
〈了〉
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