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空をリビングへ案内し、椅子に座った彼の顔をフェイスタオルで優しく拭いた。真っ赤に泣きはらした目元を見ていると、まだ理由を知らないのに優の心はチクリと痛んだ。
「ちょっとだけ待っててね」
優は足早にキッチンへ向かい、サイダーとコップ二つをお盆にのせると、ストックしていたいくつかのお菓子を持って、空のもとへと戻った。
*
「少し落ち着いたかな?」
サイダーを飲み干しそうな空を見て、優は尋ねた。テーブルの上にはクシャクシャなったチョコレートの包み紙が散らばっている。空はチョコレートが大好きなのだと、ついさっき教えてもらった。
「うん」
空はぽつりとつぶやくと、鼻をスンと鳴らした。
そして、口の端についていたチョコレートをティッシュで拭きとりながら、さらりとした口調で、「ぼく明後日引っ越すんだ」と告げた。
「え……?」
驚いて何も言えない優を尻目に、空は続けた。
「お父さんの仕事がすごく上手くいっているみたいで、次は海外に行くことになったんだ。その、国の名前は何だっけ……ごめんね、難しくて忘れちゃった」
しょんぼりと空は笑った。
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