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 ある日の晩、優は家のベランダに居た。風呂上がりなので、半袖に黒のハーフパンツというほぼ寝巻きに近い服装だった。サイダーの入ったコップを備え付けのテーブルの上に置き、プラスチックの椅子に腰をかける。 優は部誌に載せる小説のいいアイディアが浮かばず、げんなりしていた。春休み中に何とか構想を練っておきたかった優だが、それは難しそうだった。  空を仰ぐと、幾つもの星が輝いていた。でも優は星座に詳しくないから、今一番輝いている星座が何か分からない。優は文芸部の部員であって天文学部ではなかった。空を見ながらひたすらぼーっとしていると、突然素足に何かがカサコソと触れた。   「うぇ!? な、何よ!!」    すぐに足を引っ込ませた。   「暗くてよく見えない! まさか……ゴキブリ!?」    気持ち悪い……。足に痛み等なかったものの、優はひたすら不快だった。ハーフパンツのポケットの中に入れていたスマホを取り出して、ライトで足元を照らす。  その光の先にはなんと、小さな貝があった。   「え……、これは……?」    すると、貝からニョキッと手足が出て、ちょこちょこと動き始めた。優が椅子の上で膝を抱えて動揺していると、隣から小さな男の子の声が聞こえてきた。   「ねぇ……」    ヤドカリを捕まえてほしい、と告げる声は何故かだんだんと尻すぼみになっていった。   「え? ヤドカリ?」    あぁ、なっなんだ、ただのヤドカリかぁ。 優は体の力が抜け、足を下ろした。そして小さなその生き物を摘み上げると、壁の向こうにいる人物に言った。   「えーと、きみは空くんだよね? 捕まえたけど、どうしたらいい?」 「……ここの下に持ってきてほしい」    
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