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二
数日後の夜、優は未だに小説のアイディアが思い浮かばず悩んでいた。すっかり行き詰ってしまったので、少し息抜きをしようと思った。サイダーを片手にベランダに出て、プラスチックの椅子に腰を下ろす。冷たい夜風が頬を撫でる。ふと見上げると月が雲に隠れていた。今日の夜空は映えないなと考えていると、隣から小さな声が聞こえてきた。
「おねえちゃん、いるの?」
聞き覚えのある声だった。
「もしかして、空くん?」
「うん」
優は思わず足もとをスマホのライトで照らした。でも、今日はあの生き物はいない。それなのに、なぜか空はそれきり黙り込んでしまった。
「……」
「……」
「……ヤドカリは元気?」
優は尋ねた。
「……うん」
またもや沈黙が訪れる。優は何を話そうかと迷った。
「……空くんは、ヤドカリが好きなの?」
「うん」
「わたし、ヤドカリについて詳しくないから教えてほしいな」
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