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第三章魔王が死んだ後のゲーム世界
俺達は翌日を迎えたら、北の魔女のターニャへと飛んだ。
飛ばされたと言うべきか、有無を言わせないクラゲによって。
そこは真っ暗な洞窟の中だった。
俺達の足元には、衣服を剥ぎ取られた姿で死んでいるターニャの姿。
「見るな!ウミナシ!」
デューンは俺の視界を遮るようにして俺を彼の背中に隠した。
彼が抱く標本瓶はゴボリと水音を立て、デューンの足元が輝いた気がした。
「蘇生の法が間に合えば良いが」
そっか、ここはゲーム世界に似た魔法世界だ。
ゲームキャラが死んでもリトライが出来るのか。
「蘇生が駄目でも新鮮な遺体ならば喋らせることは可能かな」
「いやいやいや。しゃべらすって、ターニャさんの魔法でイグニスさんの居所を探って貰おうって話でしょ。死体のターニャさんに何を話させるおつもりですか!!いつのまにかターニャさんこそ誘拐犯扱いですか?」
「ウミナシは。違うよ。彼女はそれなりの魔女だ。ならばこんな死に方をする前に逃げ出せていたはずだ。何が起きたのか確かめる必要がある」
「そ、そうですよね。魔王を倒してイエイイエイなはずの片桐のメンバーがどうしてこんな洞窟にいるのか確認しなきゃですよね」
「そこは依頼だろう」
依頼という一言で、俺はさまざまと思い出す。
売れたゲームは続編が作られるが、主要キャラが同じだった場合は新たなるクエストを受けるところから始まるのだ。ただし、新たなる顧客やマンネリを防ぐためなのか、最初のクエストでパーティ仲間を失うことも多い。
それは、ネタのない小説、あるいは視聴率の落ちたアニメでの、人気回復のために重要人物が殺されるという大人の事情が発生するのにも似ている。
「て、テコ入れということか!!」
「テコ?罠を仕掛けられたと見るべきだ。あるいは仲間内での裏切り」
「ええ!そんなヒドイ!!」
期待していたゲームの続編で好きだったキャラがドロドロしていたと突きつけられたらヒドイな、そんな感じで俺は叫んでしまっていただけだった。
デューンはそんな俺の頭をガシガシと撫でる。
「あの」
「純粋ないい子だ。君に汚い人間の側面を見せたくは無いな」
純粋すぎるデューンを騙してるような胸の痛みを感じた。
こんな俺にデューンは大事なクラゲ瓶を手渡す。
そして彼は大きな剣を鞘から引き出した。
「敵、ですか?」
「いいや。いや、そうだな。俺達もいつ襲われるかわからん。俺から離れるな」
「はい」
「とりあえず、この洞窟はゴブリンの棲み処と見るべきだ」
ターニャをボロボロにされて殺したのはゴブリン?
え?
「ゴブリンの巣の攻略?これってそういう話でしたっけ?」
「何を言っているのだウミナシは。ゴブリンは人間の集落近くに巣を作り村を襲うという、人間には日常的な脅威だ。それらを排除する事こそ選ばれし者の義務であり、民の望みを叶える事だ」
「いえ、それはわかっておりますが、魔王を討伐したメンバーがゴブリンごときでボロボロにされるなんて。ああ、そうか。だから罠と」
「ウミナシ。そうだ。だがゴブリンごとき、ではないぞ。ゴブリンは強い」
「そうですね。小さくても集団で襲ってくる敵は脅威ですね」
「小さくは無いぞ。俺ぐらいの体の大きさはある」
「ええ!そうしたらオーク?」
「だからオークだと言っている」
ええ?
さっき、ゴブリンって言ったよね。
何が起きた?
「行くぞ」
今までのデューンでは考え付かない、低くて恐ろしい声だった。
デューンの後姿は壁が聳え立ってるみたいに見える。
今までそんな風に見えなかったのは、彼が俺に好意的に接してくれていたからで、そして、こんなに恐ろしくなってしまったのは、ここが危険な場所だから?
俺にクラゲを抱かせたのは、もしもの際には二人で逃げろ、と?
俺は標本瓶をぎゅっと抱きしめた。
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