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誰が最強なのか
洞窟の天井にいた牛鬼達は、俺とデューンに向かってケツから白いねばねばを吐きだした。
それを見事に被ってしまった俺達は、俺がデューンの背中に張り付くようにして二人仲良く縛り付けられるという状況となった。
この状況は俺のせいだ。
俺は牛鬼が俺達にケツを向けたそこで、パニックに陥ったまま考え無しな行動を取っていたのである。
逃げなければと焦った俺は、プルモーの転移術に頼ろうとしてしまったのだ。
デューンにくっついたら、プルモーの魔法で俺達三人一気に洞窟外だ!!
だがここは、小イベントに当たるっぽい戦闘場面だったようなのである。
に・げ・ら・れ・な・い!!
つまり、俺のせいでデューンが俊敏な動作が出来なくなったがために、標本瓶を抱く俺と仲良く蜘蛛の糸に囚われる羽目になっただけだった。
「くっ、すまない、ウミナシよ」
くぅ。
どこまで良い人なんだ、デューンさんはよ!!
ぐぼごぼ。
俺が抱く標本瓶の中のクラゲは、俺を責めるような泡を大きく立てる。
お陰で俺は罪悪感に囚われることなく、若者の特権の逆切れをこの現状にぶつける事ができた。
「プルモーさんが何とかしてくれると思ったのに!!」
「ウミナシ。プルモーは守るべき者だ」
「守るべき?何を言ってるの!!散々俺達を好き勝手にしてるじゃない!!力関係では、プルモーさんが一番だよ!!俺達の女王様だね!!」
「ハハハ。女王様は間違っていないな」
「笑う所ですかって、わあ!!」
デューンは俺をくっつけたまま、何と横に転がった。
彼の大剣でなんとか切り裂けて出来た余裕の分だけ動いただけだが、俺達を喰おうと襲い掛かって来た牛鬼の一匹を交わすことはできた。
でも、でもでもでも、もう動けない?
牛鬼は全部で六匹もいるのだ。
「腕や足の一本は失うかもしれないが、君も俺も生き延びる」
「そんな見通しも覚悟もいらないです!もう!プルモーさんは何もできないの?虫なんか水をかければ死んじゃうのに」
ザッパ~ン。
プルモーの水魔法を受けたのは、俺、だった。
しかし俺が被った海水交じりのその水は、俺とデューンをくっつけていた糸の粘着力を弱めたどころか、俺はデューンの背中から落ちていた。
そして歴戦の戦士がそんな好機を逃すはずはない。
自分の戒めが緩んだと知るや、彼は動いた。
俺達に飛び掛かって来た二匹を、一瞬で四つの肉塊にしてしまったのだ。
すごいよ、一匹を切り裂いたその動作のまま、返す刀でもう一匹を真っ二つにしてしまうなんて!!
何て格好いいお人なんだ。
片桐が彼に執着する理由が物凄く分かった。
「さすが、英雄ノートの弟。素晴らしき洞察力。そうか、プルモーに期待していたのは全てわかっていたということか」
いえいえ、持ち上げないでください、違います。
凄いのはあなたです!!
と、俺が否定する間もなく、デューンは残りの四匹を殲滅にかかった。
俺は悲鳴を上げながら標本瓶を抱えるだけだ。
自分の魔法が有効だと知っていい気になったのか、プルモーが、大事な夫を守るべく奮闘してくれたのだ。
俺など眼中にない状態で見境なく。
クラゲがどうやって外を見ているのか知らないが、牛鬼がデューンに糸を放つ動作をするたびに、ぶしゅーとプルモーが海水を放つ。
俺はそのたびに水圧で洞窟の床に転がる。
痛い、うわっと、わああ頭を岩にぶつけかけた!そんな感じ。
でもって気が付けば、牛鬼は単なる破片となっている。
惨憺たる虐殺現場でありながら、それを成した人物は息切れも無いどころか、その返り血も受けていない。
ただ、黒くて大きな影の後ろ姿となって俺の前に聳え立つ。
「牛鬼には塩水か。プルモーの命を救った事といい、君は賢者なのだな。では、賢者ウミナシよ、我らは次にどう動こうか?」
日本では牛鬼は、源頼光とかいう酒呑童子を倒した人が苦戦したと言われる凄い妖怪だよ?
デューンさんは、それをたった一人で合計九匹退治したお人なんだよ!!
「お、俺はあなたについて行くだけですって!賢者じゃナイナイ!!」
標本瓶を落さないように左腕でしっかりホールドし、しかし、右手は誤解を解かねばと大きく振った。
俺の判断にデューンさんが従う?
そんなのパーティ全滅フラグじゃ無いか。
「そうか、やはり。そうだな。君こそ兄の身が心配で俺と同じ考えか。では、牛鬼の弱点も分かった事だし、俺達はノートの救出に向かうぞ」
くっ。
自分賢者と言い張って町に戻るを実行させれば良かった。
そうだよ。
オートマ戦闘選択できるゲームで、俺がゲームオーバーしてしまった事が何度かあっただろ?
俺の返事も待たずに歩きだすデューン。
俺は自分の言葉の実行と、彼から離れるわけにはいかない身の上の為、急いで彼の後ろへと従った。
俺が腕に抱く標本瓶の中で、ごぶぉう、と俺を抗議するような水音が立った。
「じゃあ、あなたが判断してよ」
すると俺の頭の中で聞いただけで反発したくなる、いつもの母親のセリフが思い浮かんでしまった。
「あなたは成長しなさいな。もう大きいんでしょう」
俺がくらげに反発してしまうのは、彼女が母だからなのかな。
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