マップの記号が指し示すもの

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マップの記号が指し示すもの

 どのRPG(ロールプレインゲーム)でも、最初のクエストは経験値を上げることと、ゲームシステムを学ぶ事と、そして、最初の村から冒険に旅立てるゴールドを手に入れる事が目的なんじゃないかと思う。  RPGゲームを殆どした事が無い俺が考えるに。  俺が好きなのはシューティング型のアクションゲームだ。  コツコツ勉強が嫌いな俺が、コツコツ経験値を稼ぐゲームを楽しいと思うはずもない。ついでに、ネットで誰かと繋がるのも苦手だ。  ただ、異世界に飛ばされる事を先に知っていたら、俺はネットゲームでもしてファンタジー世界の生き方の情報を集めていたはずだと思う。 「さすがだな。ノートは。この洞窟は三層で、彼らは最下層を目指していたのか」  俺達が暗闇をのそのそ進むと突然明かりが灯り、俺達の目の前に洞窟内部を3D映像化したホログラムが浮き上がったのである。  片桐がこんなことができるとは、やはり英雄とその他は違うのか。 「だが、これこそノート達が苦戦してしまったという証だろう」 「どういうことですか?」  デューンは最下層の一角を指さした。  恐らくも何も、その地点こそ彼が考えるノート達が向かった先であろうことは、RPG不慣れな俺にもわかった。  アクションゲームのマップにも、重要地点とひと目でわかる目印が付く。  デューンが指さしたそこに魔法陣らしきマークがあるならば、そこに財宝か何かが必ずあると考えてよいのかもしれない。  今回のそれは、大きな豆が真ん中でパカッと割れた姿、まるでリトープスを線画したみたいなマークがそこにあった。  単純であるが、古代文字にも見えるという、大事な印だ。 「ノートはどこに行こうとしてたのかな」 「どういうことですか?」 「この印は、古の土地と土地を繋ぐポータルだ」  それで豆が割れているみたいな形なのか。  それでもって、ポータルならばRPGゲームをしない自分でも理解できる。ほら、最初の場所としてインターネットでポータルサイトって言うじゃない?  ちなみに、腐敗と発酵を止めるためにブランデーを添加された酒精強化ワインをポートワインというが、それのポートはポルトガルのオポルト港から積み出されたことからのオポルトが日本でポートになっただけである。  なんでそんなことを?って。  何か昔にサンドウィッチ論争とかあったからさ。  ファンタジー世界でサンドウィッチという名称を使うのは是が非かって奴。  俺はRPGゲームはしないがファンタジーノベルは好物だ。 「あの子はそんなにも家に帰りたかったのか」  デューンが珍しく痛みを持った声音を出し、俺はもの思いから覚めた。  そしてデューンがほんの少しだけ思いつめている様子があることに気が付き、俺こそこの場から逃げ出したくなった。  俺を大事にしてくれる、父と母。  俺という子供がちゃんといるのに、時々夜中に泣いている母と慰める父。  片桐とデューンは昨日知り合ったばかりの俺とは違い、俺には無い共有共闘したという時間がある。  だからデューンの中で片桐の方が比重が大きいのは当たり前だ。  当たり前だけど、だけど、俺は自分の両親を思い出してしまったんだ。  デューンが片桐の為に出した声って、とっても傷ついているような、まるで父が死んでしまった長男を嘆いているような声じゃないか。  だから俺はデューンの気持を解すような台詞を言えなかった。 「当たり前でしょう。子供はお家に帰りたいものなんです!!たとえ他所の家の子になってお金持ちになれたとしても、自分の家が最高なんです!!」 「そうかあ!!ウミナシ!!」 「わあ!!」  俺はデューンと片桐の関係何か片桐が親を求める気持と比べたら大したことないと言ったというのに、デューンは希望に目を輝かせて俺を見返すじゃないか。 「あの?」  デューンは初めて、というぐらいに快活そうに笑った。  彼はこんなに若かったの?と思うぐらいに彼を輝かせる笑顔だ。  彼は親友にするみたいに、俺の背中を軽く叩いた。 「デューン?」  デューンは洞窟の天井を顔を向け、これが決意だという風に声を上げた。  狂戦士が遠吠えをするようにして。 「そうだ。イグニスよ。父は必ずお前を手に入れるぞ!お前が平和に安全にそこで過ごしていようと、俺はお前を手に入れる!!」  そうか。  子供が生きているという条件で考え直せば、人質で酷い目に遭っている可能性よりも、里子に出されて自分をイグニスと知らないで成長している可能性の方が大きいのだ。  朴訥そうな外見と違って、デューンは誰よりも思慮深く繊細であったのか。  里親の下で幸せに成長している息子を奪えるのか、と悩むほどに。 「我らにお前を返さねば斬り捨てる。俺はお前を取り戻すと誓ったぞ!」  やばい。  もしかしたら子供への愛情しかない里親が死ぬフラグを立てちゃった、かも。
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