第一章ここから!!デューンさんったらやばい

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第一章ここから!!デューンさんったらやばい

 元の世界に還れなくなった俺に、勇者片桐糞野郎は戦士デューンを託した。  デューンは大柄な体つきだが、彼の外見は巨大ゴリラでも完全なるゴリラでは無かった。筋骨隆々でシルエットがデカいだけで彼は野獣なんかではなく、男の俺でも惚れそうな、戦士の中の戦士と言う外見だってことだ。  出来る男はみんなイケメン、かよ。  それを証明するように、彼の顔は素晴らしかった。  秀でた額に真っ直ぐな鼻筋、そして、大き目の口元は真一文字に結ばれているが、そのせいでその口元だっても芸術品に思える形であると俺に見せつけているのだ。  焦げ茶色の瞳が輝く目元なんて、改めて評するのもムカつくほどに、ああ、お前は良い男だよ、ってぐらいに印象深いものである。  どうして俺が初対面の男に反発的なのか?  普通っ子な俺がライバル意識を抱くわけがなく、普通の人間だからこそ俺は彼の存在に反発せねばならないからである。  だって、奴は見るからにヤバイんだよ?  彼は物凄く落ち込んでいるが、どうして大きなクラゲ入りのガラス瓶を胸に抱いているの?とツッコミどころだらけなのだ。  このお菓子やばい~とか、片桐先輩イケすぎる、やばい~のヤバイじゃない。  デューンに使う場合のヤバイって単語は、本来の使われ方のヤバイだ。  ちなみに、古文の「あわれ」って言葉を若者言葉の方のヤバイに変換させて訳すと、あら不思議、理解できなかった文が理解できるようになる。  そうだよな。  あの時代の「あわれ」って言葉自体が流行言葉であって、古文の生真面目授業みたいに、趣があるとか気取って訳すもんじゃ無いんだよな。  伊勢物語で在原業平が何人の女とやったとカウントして遊ぶ、という読み方だってしていいんだよなっていうか、研究者がその人数を真面目に討論し合っている事実に俺はびっくりだ。  ああ、話がそれた。  いや、俺は話を逸らしたいんだ。  意味も解らず放り込まれた異世界にて、その異世界においても生活破綻者らしき大人の男の面倒を看なければいけない境遇に落されれば、誰だって混乱するし庇護対象に敵意ぐらい抱くわ。  って、デューンさんは俺を顧みるどころかさっさと歩いて行くじゃないか! 「繋ぎを付けておきたいんだ」  ろくでなしだった片桐の言った意味が分かった。  デューンは義理とか情とか柵なんか関係なく、気の赴くままに行動するタイプの人のようなのだ。  そこで片桐は俺を彼に貼り付け、いざ彼が必要となった時に俺を迎えに来るという名目、あるいは俺を預けたその俺の……。  今、メチャクチャ怖い事を考えた。  片桐の弟分となったらしい俺がデューンの元で死んだりしたら、片桐は堂々と俺の死をデューンのせいにして弔い合戦みたいな感じで自分の戦力に否応も無く引き込んだりできるんじゃないか?って。 「うわあ。大変だ。俺こそデューンさんの懐に入って守ってもらわなきゃ死んじゃうじゃないか!」  俺は慌てて肩を落として歩き去る戦士の後ろを追いかけた。  追いかけて、犬は三日飼えば情が移る、を実践するべく話しかけた。  俺は捨て犬よ。  あなたが見捨てたら死んじゃう犬よ、って感じで。 「デューンさん。そ、そのクラゲは何か、ええと、宝物か何か大切なものなんですか?ずっと、ええと、大事そうに抱えていますよね」  デューンは俺に顔を向けると、ぼそぼそっと言葉を返してくれた。  あ、そんなに頑なな人じゃ無かった?  頑ななままでいていいよって、俺は笑顔が固まっちまった返答だったけどさ。  大事な妻って、何ですか?
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