アルバ城にて危機迫る

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アルバ城にて危機迫る

 デューンの後姿を負いながら周囲を見回して、俺は気が付き驚いた。  アルバ城の内部にて立ち働く方々は、どの方も人間じゃないかって。  あれ、ここはクラゲ王国では無かったの?  いやいや、魔法クラゲの王国ならば、人型を保っているのでは?  そうだよ。  ラブクラフトの短編の一つを思い出せ。  主人公達が辿り着いた先にあった恐怖の町だって、一見では普通のひなびた海辺の田舎町と言う設定だったじゃないか。  そして信じられないけれど、濁った寒天の塊がクラゲ王女様だったというならば、こここは間違いようもなくクラゲさんの実家なのである。  いや、間違いないようだ。  城内の召使い達全員が俺達一行に気が付くや、物凄く好意的にデューンに道を開け、それどころか胸に手を当てて腰を落とすという礼をデューンに捧げているのである。  アルバ城ではデューンは招かれざる客どころか、歓迎すべきお人か?  もしかして、デューンこそが王子様だった?  よくあるじゃないか。  三男四男が風来坊って設定。 「デューン様、プルモー姫、お帰りなさいませ。」  どんなに否定したくとも、腐った寒天こそが姫君のようだ。  そして、こんなに歓待されているというならば、俺達には脅威とはならない?  デューンこそその歓待される状況によって敵意は無いと踏んだのか、再び剣を隠した。それから腕に標本瓶を抱き直して、威厳を持って城内の廊下を目的の場所に向かって歩いているのだ。 「プルモーさんも人間の形をとれたの?それなのにどうしてプルモーさんは腐った寒天みたいな状態のままなのって、わあ」  デューンはぴたっと立ち止まり、俺はデューンの背中に衝突した。  デューンは片腕でなく、両腕で瓶を抱き締めている。 「妻は子供を失ったショックで人の姿に戻れなくなったのだ」  絞り出す声は苦痛に満ちたもので、俺はその声でデューンへの誤解が解消されたと言って良い。代りに罪悪感が湧いてしまったけれども。  あなたは生クラゲに突っ込んではいない。  下世話な想像していてすいません。 「そ、それでプルモーさんはすぐにでも行動したかったのですね!あなたの為に人間の姿に戻れるために」  そこまで行動力ある人ならば自力でショックから立ち直れそうな気がしたが、産んだばかりの子供が死んでしまったという現実は母親にはそれほどまでに重いものなのか。 「俺が元の世界に帰れなかったら、俺の母さんもプルモーさんみたいになってしまうのでしょうか」  母はクラゲにはならないだろうけれど、きっと酷く落ち込むはずだ。  だって俺は一人っ子なんだもの。  ついでに、俺の代りにもう一人を生むには、俺の両親は年齢的に無理だ。 「君を親御さんの元に帰す方法は私が探すと約束する」 「デューンさん」 「君が親を求めるように、私達の息子も私達の元へ帰りたいと君みたいに望んでいるはずだ。何があっても私は息子を取り戻す」 「お前達の息子はクラゲになって死んだはずだろう!!」  デューンではない別の大人の男の大声に俺は驚き、デューンの大きな背中から顔を出してデューンに叫んだ男を見た。 「わお」  思わずため息交じりの声が出てしまった。  ファンタジー映画の実写版に出演しそうな外見、つまり、妖精王みたいな男がそこにいるのだ。  月の光のように輝く金髪は腰のあたりまである長髪で、長身痩せ型の体の上に乗っている顔は女性かと見まがう柔和で美しいものだ。  年齢はデューンぐらいであるとひと目でわかるので若いとは言い難いが、彼はそれでも眩しいぐらいのイケ面であった。  毛皮で縁取られた長いローブを纏っている姿から、最初に妖精王だと思った通りにこの男がここの王様かそれに近い偉い身分に違いない。  それでもってデューンさんは、って、ぞわわ、だ。  デューンさんは、今にも切りかかるという殺気を溢れ出しながら、剣を抜いた姿でその男を睨んでいるのである。  男の後ろには十数人、正しくは十二人の銀色の鎧を付けた騎士が控えている。  騎士達はデューンの構えに連動するようにして、金髪男を守るようにして扇状に広がり、全員が剣を抜いた。  王城の廊下で剣を抜くなど愚の骨頂、忠臣蔵な松の廊下である。  しかし、デューンには浪士になる部下なんかいない。  デューンは切腹して終わっちゃうことなんか許されないんだよ。  あなたには庇護せねばならない、クラゲと十五歳の少年がいるじゃないか。  だけど、笑っちゃうかな。  十五歳の人間の男の子の方が、デューンさんの中ではクラゲよりも比重が軽いんだよって事実。  それでもって、クラゲこそこの事態を引き起こした張本人だ。  このアルバ城に瞬間移動して下さったから! 「デューン。君は誰に唆された。なぜ私に剣を向ける。君達は自ら私に王位を手渡したのではないのか?」 「それはお主を信じていたからだ。よもや、私達を追い払うために我が子を隠すという所業に手を染めるとは思わなかった」 「誰がそのような嘘偽りを!」  剣を抜いているデューンが俺に振り返りかけ、俺は脅えて慌てた。  デューンが完全に俺に振り向いたその時、この事態を招いたのは俺だって、ここにいる皆さんに周知されてしまう!
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