北の魔女はどこにいる

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北の魔女はどこにいる

 俺達、いや、クラゲは北の魔女に会いに行く方針が決まった途端に、再び有無を言わせないテレポートを俺とデューンに課した。  クラゲに使われる人間って何だろう。  人間の尊厳を根底から潰されるような気持ちがするよ。  だが、戻ってきたのはもともとのデューン達のお家であった。  なぜにと不思議がる俺は食事室となる部屋に連れ込まれ、今や俺達の前には召使い達によって作り上げられたご馳走が供されている。  この結果に、居候である俺はクラゲへの反発心を簡単に消し去ることができた。  それどころか、北の魔女詣でに行く選択を取らないでくれてありがとう、そんな気持さえ湧いていた。  だってさ、噂の北の魔女のお宅はどこか、どころか、魔女が現在いらっしゃる場所には俺はそれほど行きたくは無いのだもの。 「君は本当に北の魔女、ターニャの事が嫌いだね」 「え?」  意外や意外、彼女は勇者達のパーティにいた。  俺には片桐の存在した記憶しか無かったが、言われてみればゲーム冒険者コスプレ隊の中に、水着にマントという組み合わせの美女はいた。  そう言えば。 「今日は色々連れまわして悪かったね。明日も一緒に大移動だが、いいかな?」  クラゲはあの魔女とデューンに二人きりでの会話などさせたくないらしい。  標本瓶の中のクラゲは、目はついていないけれど俺を見据えているような威圧感を出しながら、ごぼっとあぶくを吐き出した。  頼んだわよ?  焼餅焼きなんだよってデューンは笑うが、確かに、以前は人間の姿を取れていた人であろうが、今は単なるクラゲでしかないものね。  デューンがプルモーがクラゲになってから性的欲求を解消できていない状況にあるとしたら、肉体がある美女にデューンがよろめく可能性をクラゲでしかない女が心配するのは自然なことだ。 「私はプルモー以外どんな女性にも心揺らぐことなど無いのに」  揺らげよ。  人間の男であるならば!!  俺はデューンの恋心が尊いと思うよりも、気色悪い、と思うだけだった。  まるで、だぶついた肉体の魅力など見えない母にやはり枯れた中年男でしかない父が、今でもらぶらぶな所を息子である俺に見せてきた時の様な、気色悪いから止めてくれ、そんな感じだ。  だからか、俺がデューンに向けた言葉は攻撃的だった。 「……三ヶ月も一緒のパーティでしたら、息子さんの事についていくらでも尋ねる機会はいくらでもありましたよね?」 「息子の死をその時には受け入れていたからな。逆に息子の事を尋ねられる事こそ俺達には負担だった」 「すいません。言い方を間違えました。魔王の魔力がお子さんに及ぼしたと考えていらっしゃったならば、それが事実であるかどうして確認されなかったのかと聞くべきでした。だって、魔王関係なかったら、魔王さんは無実の罪で殺されたって事になりますよ」 「ウミナシは優しいのだな。魔王にさえも憐憫の情を抱くとは」  俺のいた世界では、魔王様が女の子だったり、お友達になってくれたりとか、そんな創作物語が溢れているんだよ。  まあ、死んでいた魔王は、俺が失って悲しむような外見、つまり可愛い女の子でもないごつくてくどい洋物中年男性だったから良いのだけどさ。 「だが、確かにそうだな。あの魔王の魔力が我が子に作用したのか、それだけでも確認するべきだった。そこで我が息子、イグニスの生存が明らかになっていたかもしれないのだもな」 「イグニスってお名前だったんですね」 「ああ。炎の様な真っ赤な髪をしていた。だからイグニスだ」  俺は真っ赤と言う程では無いが、日本人の中では染めた様な色合いの赤みがかった茶色の髪をしたリア充の姿を思い出していた。  もしかして、デューンが勇者を守る戦士となったのは、片桐の髪色に喪った我が子を重ねたのだろうか、とも。  そしたらなぜか胸がキュウと痛んだ。  デューンとクラゲは片桐こそ守りたい訳で、俺はその片桐が弟分だと言い張って彼らに預けたから守っているだけなんじゃないのか?  そんな卑屈な考えが自分を襲ったのだ。 「どうした?」  俺は自分の思考が辿り着いた想像に脅え、顔に笑顔を貼りつけて、何でも無いと言って返した。  何でもありすぎるが。  だってさ、片桐が俺をいらないって言い張れば、デューン達は俺を切り捨てる事が出来るんじゃないのか?そんな考えなのだもの。  ごぼっとガラス瓶で泡が立った音が聞こえた。 「君はノートが嫌いだもんな。だからって弟の方にも冷たくするのは止めようよ。ウミナシはノートと違って赤ん坊みたいだぞ」  俺は自分の生存権の為にいつかクラゲを殺る事があっても胸は痛まないと思ったが、目の前の優しき戦士の為にはぎりぎりまでクラゲを殺るのは我慢しようと心に誓った。  大丈夫。  デューンさんは俺を守ってくれる。  クラゲの命令だったらアウトでも、片桐からは。
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