718人が本棚に入れています
本棚に追加
2人はクレープを持って施設から外に出た。空は晴天で気持ちのいい午後。暖かい陽射しの中を少し歩き、小さな公園を見つけ2人はベンチに並んで座った。
「ここならゆっくり出来るな」
「うん…」
瞬はひとくち食べた後、口は付けず嬉しそうに食べている速川をジッと見つめていた。
(ふふっ、嬉しそうだな。喜んでもらえてよかった……あっ!)
大きな口を開けてクレープを食べている速川。ホイップクリームが口の端についたまま気づかずに食べている。
「さくらさん、口の端、クリームついてる…」
「えっ、どこ?」
慌てて反対側の口の端を指で拭う速川。
「違う、こっち」
瞬が親指でクリームを拭って、そのまま指についたクリームを舐めた。
「あまっ…」
「あ、ありがと。ん? 瞬くんは食べないの?」
瞬が持っていた『バナナ&キウイホイップクリームチョコがけ』を見て、速川が尋ねる。
「一応、レディーファーストで待ってる…」
「えっ、あ…」
「さくらさんの方は? もう半分食べた?」
「う、うん。ちょっと多く食べちゃったかも…」
「ふふっ、いいよ。じゃ、交換」
「うんっ」
持っていたクレープを交換して、瞬は速川が食べていたクレープを食べ始めた。
たっぷりのホイップクリームの中にイチゴの甘酸っぱさと、ピーチの甘さがあり、クレープ生地のモチモチ触感が甘さを抑えてくれる。
瞬が食べ終わると、速川は少し多めにクレープを残し瞬に差し出した。
「さっきの少なかったでしょ…ごめんね…」
「ふふっ、いいのに」
速川の優しさに微笑んでクレープを受け取り、瞬は速川の口元にクレープを差し出す。
「じゃ、さくらさん、もうひとくちだけあげる。はいっ」
「いいの?」
笑顔で頷く瞬。速川は笑顔を見せ、瞬が差し出すクレープにパクッとひとくち食いついた。その顔が可愛くて瞬はドキッと心臓を高鳴らせる。
(可愛い……俺の手から食べた…マジでぎゅってしたいな…)
クレープから口を離し、口を動かしながら速川が言う。
「ありがと。もう十分だよ」
「そう? じゃ、あとは俺がもらうね」
2種類目のクレープも甘酸っぱさと甘さがバランスよく、クレープ生地が甘さを抑えてくれていた。
2種類のクレープを2人で堪能し、少しベンチでゆっくりひと息つく。
「さくらさん、今日、楽しかった?」
背もたれにもたれて空を見上げ、瞬は尋ねる。速川も同じように空を見上げて答える。
「うんっ、すごく楽しかった! 瞬くん、ありがと」
速川の声は穏やかで優しく、嬉しそうで温かさを感じた。
「じゃあさ、そのお礼に本当の事を話してくれない?」
少し速川の気持ちが和らぎ、心を開いてくれたような気がして、今なら嘘をついた事や謎が多い速川の本当の姿を見せてくれるような気がした。
最初のコメントを投稿しよう!