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1つ外れて速川の白い喉元が見え、次のボタンが外れた時、喉元のくぼみから下へ傷痕が見えた。シャツの下はキャミソールを着ていて傷痕は3cmほどだけ見える。速川はボタンを全て外し、次にゆっくりとキャミソールを下から捲り上げた。へそが見え、みぞおちの所から真っ直ぐ喉元まで大きな傷痕。
「えっ…」
あまりにも大きな傷痕で、瞬は驚き息をのんで言葉を失う。いつもなら可愛いブラに興奮する瞬だが、胸を二分するように傷痕が白い綺麗な肌に残っていた。
「手術の痕…?」
キャミソールを鎖骨まで捲り上げて速川が話し始める。
「私ね、先天性心疾患で生まれて3ヶ月の時、心臓の手術をしてるの。正式な病名は、ファロー四徴症っていう指定難病になっている病気」
「ファロー……しちょう…しょう…?」
「そう。その特徴は、今説明してもたぶん難しくて分からないと思うけど、心臓手術をしなければ、私は生きられなかった。心臓の手術をする時って、どうするか知ってる?」
「いや…はっきりとは……心臓って肋骨の中だよな…」
「うん…」
片手でキャミソールを持ち、もう片方で説明を始める速川。
「この胸の所、喉元からみぞおちまで硬い骨があるでしょ?」
瞬は自分の胸に触れ、確認する。
「うん…」
「それが胸骨っていうんだけど、その胸骨を縦に切って開くの」
「えっ、そうやって開くのか? 手術したあとは? 骨はくっつくのか?」
「くっついてるのかな? たぶん無理だと思うな。私の胸骨は、数本のワイヤーで縛られているもの…」
「ワイヤーで…? ずっと?」
「そう。あ、でも空港の金属探知機とかは鳴らないって先生言ってたな…でもレントゲンとかは申告しないといけないけど…ふふっ、レントゲンで写るんだよ。私のワイヤー…」
冗談ぽく笑いながら言う速川だが、瞬は笑う事が出来なかった。あまりの衝撃に想像が追いつかない。
「今は、こんな風に胸骨を開けて手術しなくても、こう横から器具を肋骨の間に差し込んで手術出来たりするんだけど、まだ生まれたばかりの時は無理なんだ。心臓自体が小さいし、血管も細くて胸骨を開けて手術するのが普通かな」
「それで?」
「えっ…?」
「さくらさんは治ったの?」
「治った……とは言えないかなぁ。手術を受けて、日常生活には問題ないくらい元気になったし、今は仕事も出来てる。でも無理をすると熱が出たり疲れたりするけど……今の所、問題はないかな」
「今も病院に通ってるの?」
「あぁ……それなんだけど……うーん…」
急に言葉を濁し、速川はキャミソールを下ろして言った。
「大学生までは実家にいて、1年に一度、病院に行って検査をしていたんだけどね……就職して一人暮らしになってからは……実は行ってないんだ…」
苦笑いをして速川はそう言った。
「それって、大丈夫なの?」
「うーん……実は、大丈夫じゃない…」
「じゃなんで行かねぇんだよ! 何かあったらどうすんだよ! このあいだだって、それで疲れたんだろ?」
怒りも含め瞬は大きな声で速川に怒鳴る。
「心配……してくれるの…?」
「当たり前だろ! !」
「嫌にならないの? 重いって……言わないの…っ…?」
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