知る勇気

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「あっ、ケーキ…」 速川を抱き締めたが、持っていたケーキの箱は無事で潰れる事はなく、瞬は速川を放しケーキの箱を差し出す。 「お土産…」 「わざわざ? ありがと…」 速川は礼を言って箱を受け取り、2人はマンション内へ入った。 エレベーターに乗り、速川の家に向かう。少しドキドキする瞬。速川に会えた喜びと、家に行く緊張で沈黙してしまう。 エレベーターは5階で止まりドアが開いて、速川が先に降りる。瞬は速川のあとをついていく。 部屋の前で速川が止まり鍵を開けて、ドアを開いて言った。 「どうぞ……あがって…」 「お邪魔しまーす」 瞬は微笑んで言い、玄関に入り靴を脱いで用意されたスリッパに履き替えた。速川はドアを閉め鍵をかけて、靴を脱ぎスリッパに履き替え中へ案内する。 リビングのドアを開けて瞬を中に入れると、速川はそのままキッチンへ向かった。 「コーヒーでいい?」 「うん…」 「あ、好きなところに座って」 リビングは12帖ほどで、白のフワフワなラグマットに長方形のガラスローテーブル、ベージュの可愛らしい2人掛けソファーがあった。瞬はソファーの中央に腰を下ろす。向かい側には3段のチェストがあり、上には小型のテレビが置いてあった。 キッチンに入る手前には、正方形のダイニングテーブルと椅子が1脚。速川が食事をしている様子が窺えた。 「うわぁ! おいしそう!」 キッチンで速川がケーキの箱を開け、覗き込んで声をあげる。 「瞬! ありがとっ!」 振り返って満面の笑みで礼を言う速川に、瞬は笑顔で返す。 速川は食器棚から皿を出し、箱からケーキを取って皿に移した。トレーにコーヒーカップ2つとケーキを乗せた皿2つを乗せて、リビングへ来る。 持っていたトレーをローテーブルに置きラグマットに腰を下ろし膝をついて、瞬の前にコーヒーカップを置く。そばにシュガースティックとコーヒーフレッシュをいくつか置いて言った。 「お好みでどうぞ」 「ありがと」 瞬はシュガースティックとコーヒーフレッシュを1つずつ入れ、カップの受け皿(ソーサー)にあるスプーンでかき混ぜた。速川は自分のコーヒーカップもトレーから下ろし、ケーキが乗った2つの皿もローテーブルに置いてトレーをテーブルから下ろした。 「瞬はどっちがいい?」 ラグマットに横座りして、少し上目づかいで速川が尋ねる。瞬はドキッとして、速川を見つめ微笑んで答えた。 「さくらに買ってきたんだ。さくらが選んでいいよ」 「えっ、いいの?」 「うんっ」 「どうしようかなぁ……どっちもおいしそうだなぁ…」 2つのケーキを見比べて、可愛い顔で悩んでいる。その姿を見ると、瞬は速川が年上だということを忘れそうになる。 (デートの時もクレープで悩んでたし、ふふっ、ほんと可愛いよなぁ……)
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