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深まる想い
しばらく抱き締め合って泣いた後、2人はキスをして瞬が笑顔で話す。
「そうだ! さくらはデート、どこに行きたい? 今度はさくらが行きたい所へ行こう。さくらがしてみたい事をするっていうのもいいよ。どうする?」
「映画を観に行きたい。観たい映画が、最近公開になったの」
「いいよ。じゃ明日? 明後日にする?」
「明日…」
「うん。それじゃ今日は早めに帰った方がいいな…」
瞬は壁に掛けられた時計で時間を確認し、速川の体調を気遣い言う。
「えっ……」
「ん?」
速川が瞬を見つめ、何か言いたげな表情を見せる。瞬は右手を伸ばし速川の頬に触れて、親指で涙を拭い尋ねる。
「何? どうした? 何か言いたい事があるなら言って。遠慮することないよ。俺達は恋人だろ?」
優しく微笑んで言う瞬に、速川は少し恥ずかしそうに言った。
「帰るの…? 泊まって……いけば……いいのに……」
段々と声が小さくなり、モゴモゴと言う速川。顔を真っ赤にして言った言葉に、瞬は驚きを隠せない。
「えっ……で、でも……まだ、今日家に来たばっかりだし……え……いいのか…?」
お互いに一目惚れだった2人だが、再会して1ヶ月、交際し始めてまだ1週間にもなっていない。速川の家に来れた事は嬉しいし、速川の事を知って出会った頃よりも愛おしく想いは強くなっている。速川の全てを欲しいとさえ思うが、速川の方から「泊まっていけばいい」と言われるとは思ってもみなかった。
「瞬と一緒にいたいの……ダメかな…」
不安そうに訊く速川。
「いいよ。じゃ今日は泊まらせてもらって、明日は映画デートに行こう」
「うんっ」
夕食をどうするか2人で話し合う。速川は実家に帰っていた為、冷蔵庫には食材がほとんどなく、買い物に行って料理するのも手間がかかる。結局2人は宅配を頼み、夕食を済ませた。
夕食の後、2人はソファーに並んで座りコーヒーを飲んで寛ぐ。2人掛けの為、少し狭い。2人の肩や腕、脚が密着する。
「瞬……」
「ん…?」
速川が突然、瞬の体に腕を回して抱き着いて来る。腹の辺りに顔を埋めて、ジッと瞬にしがみつく。瞬がそっと速川の頭を撫で、声をかけた。
「さくら? どうした?」
すると速川は顔を伏せたまま、話し出す。
「夜になると不安になるの。余計な事を考えて、眠って明日の朝、目が覚めなかったらって……怖くて…」
「それで……俺を」
とっさに顔を上げて、速川が慌てて言う。
「違う! だから瞬に泊まってって言ったんじゃない。本当に…一緒にいたかったから…」
「ふふっ、そっか」
瞬は速川の額に口づけ微笑み、速川を慰める。優しく頭を撫で声をかける。
「大丈夫。俺がいる。俺が必ずさくらを助けるから。これからは、不安ならいつでも俺を呼んで。すぐに来るから…」
「うんっ……瞬…」
瞬の体に顔を埋め、ぎゅっと抱き着く速川。
「毎日、不安だったのか?」
「うん……この2年間、検査を受けてないし……」
「そうだな。でもまた病院に通って、きちんと検査を受けて管理していけば大丈夫だ…」
「うん…」
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