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それはカルテットチームの選抜結果だった。
前学年の終わりにカルテットチームとオーケストラの選考試験があったのだ。学年が上がるごとに更新されるオーケストラは既に選考結果はでており始動している。
まさか、と目を疑って瞬きをしてもそれは消えない。
その一番上に自分の名前があった。
「嘘だろ……」
漏れた一言が震えていることにも気付かず、奏は掲示板を凝視した。
「嘘なわけないだろ! 俺たち選ばれたんだよ!」
弾んだ諒介の声に驚きとともにじわりと嬉しさが溢れ出した。
それと同時に奏たちを遠巻きに取り囲むような同級生たちの視線を感じる。ひそひそと噂話をしながら冷ややかな視線を送られていることにドキリとした。
これは洗礼とでも言えばいいのだろうか。
やっかまれることを差し引いても、このカルテットチームに選ばれたことは意味のあることだった。
カルテットとは主にヴァイオリン二挺とヴィオラ、チェロの三弦楽器による弦楽四重奏のことだ。
学園に代々伝わる伝統あるチームで、毎年2年生の時に結成される。
このチームに選抜されると基本附属大学には入学可能、大学に行かず楽団に入りたい場合などもオーディションへの推薦もしてもらえる。
人によっては将来的に留学やサロンコンサートの仕事も支援してもらえたり、往年、このチーム出身者は有名な交響楽団に入るし、海外で活躍したりしている人も出ている。
とにかくこのチームに選ばれることは大なり小なり実力を認められたと言っていい。
自分のヴァイオリンの腕が劣っているとは思ってない。コンクールでも受賞はしていたし、努力も人一倍してきたつもりだった。
だが、奏は人に合わせて演奏することが上手ではない。だからこそこの選抜は飛び上るほど嬉しい半面不安なのだ。
それでも感慨深くその通達を見つめ、諒介以下のメンバーの名前を確認して愕然とした。
チェロ 桜澤類。
「……桜澤って……あの桜澤!?」
「どこに他の桜澤がいるんだよ」
諒介の呆れたような声。
二度と関わりたくないと思った矢先にこれかと消沈しながらもう一度連絡を見て、放課後にメンバー召集だということに気付いた。
そこでチャイムが鳴り慌てて教室へと戻る。
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