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  「とにかく、入口でみっともない姿を見せないでくれるか? 入れよ」  乱暴に敷地内に入らされると、後ろで門扉が閉まった。まるで刑務所に放り込まれたようで、逃げられない気分になり息が詰まる。  ずんずん家の方に歩いていく夫を追いかけるように美晴も小走りになった。 「あの、幹雄さん、誠意とは…?」  声をかけるとようやく玄関先の扉の前で夫が振り返った。 「誠意の意味もわかんないの? 美晴はほんとうにバカだね。足りない頭で考えてみなよ。誠心誠意謝るっていったらどうするの?」 「えっと…」 「土下座したら許してやるよ、って言ってるの! ここまで言われなきゃわからないなんて、困ったものだな」  土下座を強要されたので玄関先で膝をついた。申しわけございませんでした、と涙ながらに謝った。美晴は夫の攻撃が過ぎるのをひたすらに待つ。嵐が過ぎ去るのを待つように、いつもこうしてきた。  その姿を見た幹雄は満足したようで、帰ってやってもいい、と言い出した。 「ありがとうございます」  これで刑務所から解放される――美晴はこっそり息をついた。幹雄を前にすると、まともな呼吸がひとつもできない。
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