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 窓の外から見える空は鉛色で、低く吊るされた雲が街を飲み込むようにして包んでいた。松本美晴はキッチンの窓を眺めながら、自身の心も同じようにどんよりと重い鈍色に包まれていることを感じた。  彼女の結婚生活は、多くの人から見れば幸せと言えるだろう。28歳にして結婚、都内の中心地に住む資産家の妻という立ち位置――しかしその裏で、夫の不遜(ふそん)な態度や義家族との攻防が絶えず続いていた。 (またダメだった)  先ほど訪れた不愉快な鈍痛で生理になったことを知った美晴は、自宅の手洗い内で落ち込んだ。震える拳を掌で包み込む。 (幹雄(みきお)さんになんて言おう…)  義理実家や夫から第一子を切望されている美晴は肩を落とした。子供ができなくてショックなこと以上に、彼らにその事実を告げることの方が正直荷が重く辛い。部屋に戻って痛む腹部を押さえながら引き出しを開け、以前検診を受けた結果の記載された書類を取り出した。 (ブライダルチェックを受けた時、大丈夫だったのにな)  もともと子供を切望していた義理実家に薦められ、結婚前にブライダルチェックを受けたことを思い出す。結果が良好だったため義母が両手離しで喜んでくれた。しかしその時の優しい義母はもうどこにもいない。彼女は人が変わったように美晴に対して冷たくなった。夫も、義父も。それはきっと、彼らの期待に応えられないせいだ。
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