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 重い溜息をつき、美晴は夕食の準備の続きを始めた。  毎日異なった一汁三菜を命じられた食事は作るのが大変だ。ぼんやりする時間はない。  慌ただしく食事の用意をしていると、美晴のスマートフォンにメッセージの着信が入ってきた。夫の幹雄からだ。 ――接待がある 夕飯はいらない  時間をかけて作った料理は夫のひとことで全部無駄になる。毎日一生懸命夫のために料理をしても、ねぎらいの言葉や『美味しい』という言葉でさえ掛けてもらえない。鈍色の空よりも重い溜息が美晴の口から吐き出された。 (仕方ない。朝ごはんに回そう)  下ごしらえをした主食の肉にラップをかけて冷蔵庫へ入れる。接待は急に入ることもあるだろうが、連絡はいつも食事前、ひどい時は食事の時間をとっくに過ぎてから連絡してくることもある。  すっぽかされる時は毎回こうだ。もう少し早く連絡してくれてもいいのに、と不満が募るが養っている身分で偉そうなことは言えない。  夕食の用意から翌日の朝食の準備に切り替え、それらを整えてから広いリビングで寂しく一人きりでぼそぼそと夕食を摂る美晴。これは彼女の日常茶飯事で、今に始まったことではない。  不満に思うことはまだある。予定を前倒しで帰って来て夕飯の用意ができていないと叱られたり、今日のように自分勝手に接待や飲み会に参加して連絡もなく帰って来ない日もある。そういう時は大抵午前様に帰宅する。 (幹雄さん…昔はすごく優しかったのに)  結婚したばかりの優しい夫のことを忘れたくなくて、未だにリビングボードに飾ったままの写真立てに目をやる。白いフレームの写真立てに納まった夫は、普段とは違い愛妻家の顔をして笑っていた。
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