1683人が本棚に入れています
本棚に追加
弱々しく見せるために眉を下げ、悲壮感を漂わせた状態で電話に出る。証拠が自らやってきたのだ。いい映像を撮ろう。
ビデオ通話で録画ボタンを押して応答した。「もしもし、美晴です」
『美晴さんッ? あなたどういうおつもり? 幹雄ちゃんにご飯も食べさせられないの!?』
いい大人なんだから自分で食べるご飯くらい用意しろ、と言いたいが我慢する。いつか証拠を叩きつけた時に言いたいことは全部言ってやろう。それまでの我慢だ。
「仕事で遅くなってしまいまして。つい、お義母さまを頼ってしまいました。幹雄さんはお義母さまの料理が大好きだといつもおっしゃっていますし、私もお義母さまのように上手に料理を作れるように頑張るつもりでいたのですが……申しわけありません」
今、言い返してもなにもいいことがない。お世辞も随分達者になったと自分で感心した。
『まあそういうことなら仕方ないわね。美晴さん、明日は私を送迎なさい。ダンスクラブがあるから』
毎週月曜日と木曜日は義母のダンススクールへの送迎がある。前までは不定期だったが、最近講師が変わったらしく、その彼がいる曜日にしか義母は行かなくなった。
お金があるのだからタクシーでも呼んで自分で行け、と言いたい。義母の送り迎えのせいでパート先のシフトが午前中しか入れないのだ。アシ代のひとつでも欲しいところだが、そんなものは愚か、お礼を言われたこともない。やってもらって当然のスタイルの彼らにそんな常識は欠如している。
最初のコメントを投稿しよう!