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 不妊治療のことで一方的な言い合いになったその日、幹雄が自宅マンションに帰らなくなった。心配して連絡をしても彼と連絡は取れない。和子に連絡を取ってようやく実家で義母に甘やかされているらしい内容を知った。 ――幹雄ちゃんの傷が癒えるまでは、こちらから会社へ通わせます  美晴はこのような連絡を義母から受けるたびに疑問に思っていた。自分の両親は祖母に食事のことで頼ることもなければ、祖母からおかしな連絡が入ることはなかった。一度、度重なる連絡のことを頻度を減らして欲しいと義母に申し伝えたところ、美晴の家がおかしいだけで世間一般はこんなものだ、親が子供の心配をするのは当然だ、と言われたため、彼女は幹雄や和子のやり方が正当性を持っているものだと信じていた。  幹雄が心配なので何度も連絡を取ったが、数日経っても義理実家から戻ってこないため、美晴は意を決して彼らの住まいへ赴いた。  松本家は先代より会社を興しており、その業績の結果多額の資産家である。そのため、都内にも関わらず地価の高い地域に義理実家の豪邸ともいえる自宅が建てられていた。大きくそびえるように立つ家を囲うように高く設計された塀。駐車スペースも十分にあり、入口の門は大きい。まるで美晴を拒絶するかのような佇まいで、彼女はいつもこの家の門を叩くときに緊張する。  インターフォンを鳴らすと幹夫が門前に現れた。 「幹雄さん、申しわけありませんでした。許してください」  どうか帰ってきて欲しいと伝えると、幹雄に誠意を見せろと言われた。戸惑う美晴に、幹雄は鋭い目線を送り付けてくる。
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