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 翌日は、アルバイトが休みの日だった。航は楡元から買ったクーラーボックスに水とマナを入れ、蓋を閉めて家を出た。  家の裏手を山に沿って回り込むと、一軒の箱状の建物が見えてきた。以前、周囲を散策して見つけた。表の門に残る文字を見る限り、昔は診療所として使われていたらしい。とうに朽ち果てた建物の外階段をそろそろと上り、屋上に足を踏み入れた。  予め、排水溝には栓をしていた。周囲は五十センチほど高く、窪んだ床にはたっぷりと透き通った水が溜まっている。いつかマナを連れてくるため、掃除をしたかいがあったというものだ。 「なにこれ、すっごーい!」  クーラーボックスに詰め込まれていた不満も忘れ、人魚はプールよろしくご機嫌で飛び込む。四方は二十五メートルはあるから、立派なプールといえる。航もハーフパンツの裾をたくし上げ、冷たい水に足をつけた。だが結局は、すいすい泳ぎ回るマナに足をすくわれ、水の中に尻もちをついてしまう。 「あーあー、もうびしょ濡れだ」  文句を言いながらも、子どもじみた高揚感が胸を満たすのを感じた。人魚はけらけらと笑いながら、端から端まで泳ぎ回った。 「マジすっごい! 航、サプライズの才能あるよ」 「それはなにより」 「すかしちゃって。ほら!」  顔に水を掛けられる。腕で顔を拭いながら、航も子どものように声をあげて笑った。水面は燦々と照る日光に輝き、まるで宝石のような粒を散らしていった。
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