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 久々の街の暮らしも、ひと月が経つと少しずつ慣れてきた。思わぬ早さで再就職先が決まり、来週には初出社が控えている。買い物を終えてアパートに帰宅した航は傘をたたみ、ビニール袋を部屋の座卓に置く。中に入ったビールや菓子は、小さな祝杯をあげるためのものだ。  その前に、風呂に入って湿った身体を温めよう。湯を溜めるべく風呂場で栓をひねり、背を向けて着替えを用意していると、ばしゃんと激しく水の弾ける音が背後から響いた。 「なにこれ、狭い風呂!」  風呂場のドアを開けると、まだ数センチしか湯の溜まっていない浴槽の中に、金色の髪を持つ人魚が浸かっていた。「マナ!」名前を呼ぶと、彼女はひらひらと手を振り、「久しぶり」と笑う。  彼女に言われ、大切にとっていた青く透き通るウロコを手渡す。それを尾びれに被せた人魚は、ぴちゃぴちゃとひれ先で水面を叩いて胸の前で腕を組んだ。 「あたしに黙って引っ越すなんて、薄情だな、航は」 「……そうだな、ごめん」右手を差し出す。「きっとまた会えると思ってた」  ウロコを持っていれば、マナは自分を見つけてくれる。信じてはいたが、実際に対面すると胸の奥から熱いものがこみ上げてくる。人魚は、「これからも、よろしく」とその手を握った。強く手を握り返し、航も大きく頷いた。
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