廃屋で歌う生首

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 私が中学生のころ、裏山に「悪霊が棲む家」があるという噂があった。  私は小学生の時に、女子で組んだ探検隊で山に遊びに行き、その小屋の実物を見たことがあるのだけど、ただの古ぼけた炭焼き小屋で、ずいぶん前から使われなくなって放置されたものだった。  中の床は土がむき出しで、なんとかまどらしいものがあり、かなりの年代物だと分かった。  そんな小屋になんで悪霊の噂なんてものが発生したのかというと、夜中にその小屋に行くと、誰もいないのに恐ろしげな歌声が聞こえてくるというのだった。  風の音か、下手な人がカラオケの練習でもしているんじゃないかとか、私にとっては笑い話半分の怪談ではあった。  ある夜までは。 ■  冬だというのに、台風のように、風の強い日だった。  中学生時分というのは愚かなもので、私は、こんな日こそ探検がしたくなった。  同級生の女子たちは、もう山へ遊びになんか全然行かなくなってしまっていた。  仕方なく、一人で、動きやすいようジャージを着てこっそりと裏山に上った。  途中、やっぱり台風の時みたいに、救急車や消防車のサイレンの音がした。  やっぱり危ない日なんだと思ったけど、だからこそわくわくしてしまう。  山道を登っていると、ごうごうとすさまじい風の音がした。  木の枝どころか幹までしなり、ちぎれ飛んだ葉がそこらじゅうを飛び交っていた。  こんなんじゃ悪霊の歌声どころか、叫び声だって聞こえなさそうだと思った。  小屋の近くに着いた。  さすがに悪霊を信じてはいなかったけれど、夜中に見る廃屋というのはそれだけで充分不気味で、探検のしがいがあった。  ふと、妙な音がした。  風の音とは明らかに違った。  おおん、おお、と、人間の声そっくりの音だ。  猿か、鳥でも近くにいるんだろうか。  私は野生動物を警戒してあたりを見回したけど、その気配はない。  さすがにこの風では、動物だって活動しないだろう。  よくよく耳を澄ませると、音は、小屋の中から聞こえてきた。  嵐の中で、自分がつばを飲み込む音が聞こえた。  私は小屋に近づいた。  壊れた扉の間から、月明かりを頼りに、そっと中を覗いてみた。  は、床板のない土の上に置かれていた。  サッカーボールより少し小さいくらいの、やや縦長の塊。  首。  人の首だ。  髪の短い、男の子らしい、人間の生首。  目鼻や口から血を流し、地面にも血だまりができていた。  そんな首が土の上にトンと置かれ、口をぱくぱくと開いて、声を出している。  おお、うう、おお、……  おお……ん、ううう……  その生首と、目が合った。
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