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じわじわと思い知る、理仁は、表具屋が好きだった。
理由はないが、彼を信用し、困っていることがあれば、彼に話していた。
親身になって話を聞いてくれて、必要な事だけアドバイスをくれる。
彼を信頼し、尊敬していた。
「表具屋さんの言葉なら、少し信じてみてもいいです……
自信はありませんが」
表具屋は、フッと笑って、ゆっくりと理仁を放した。
「元気で暮らせよ」
そう言うと、いつもの表具屋の顔でにやりと笑った。
理仁の体を、くるりとまわして、十字屋の方に押しやった。
背中を押された手が、温かくて……振り向きたかったが、できなかった。
表具屋を振り返ったら、きっと彼の見られたくないと思っている顔を、見てしまう気がしたから。
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