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理仁と十字屋は、手を繋いだまま、歩き出した。
改札を抜けて、プラットホームに立った。
ホームにはもう、汽車がついていた。
白い煙をモクモクと吐き出す、重厚な黒い車体に、赤いプレートが掲げられていた。
「…… もどります」
理仁はそう言うと、一度ギュッと握りしめてから、手を離し、汽車に乗った
「体に気をつけて」
十字屋が、必死にそう言った。
「…お母さん」
戸惑いながらそう呼んだ。
「理仁」
「お母さん」
腹の底がざわざわとした、そこから沸き上がる祈りのようだった
汽笛が鳴って、ドアが閉まった
「お母さん、ありがとう、ずっと、ずっと会いたかったよ」
伝えたかった言葉がやっと言えた
汽車が、ガタンと音を出して、動き出した。
「お母さん!」
そう呼びたかったんだ…。
汽車を追いかける、母 十字屋が、プラットホームの端まで汽車を追いかけ、大きく手を振るのが見えた。
「お母さん…」
思い描いた、恋しいその姿が、どんどん小さくなった『お母さん』と呼ぶたびに、胸が熱くなって、もっとそばに居たかった、もっと呼びかけたかった、流れる涙も、思いも止められなかった。
他に乗客がいないので、大声で泣いた。
しゃくりあげ、嗚咽がこぼれた、子供のように泣きじゃくって「お母さん」と呼んだ。
今まで、呼ぶことができなかった、それを取り戻すように。
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