ハイビスカスと桔梗

24/35
前へ
/85ページ
次へ
 気が付くと、部屋の外が、ザワザワとさっわがしかった。 何が起こっているのだろうと、ドアの方を眺めていると、騒動はドアの直向こうまでやってきた。 そしてノックも、遠慮もなく、ガラリとドアが開いて、記憶より、少しくたびれた父が立っていた。  父はいつも、びしっと髪を撫でつけ、三つ揃えのスーツを着ていたが、今の父は、髪を振り乱し、ジャケットもネクタイもしていなかった。 走ってきたのか、呼吸が乱れて、はぁはぁと、肩で息をしていた。 「理仁…」 静かに、理仁の横に立って、目を開けている理仁の顔を覗き込んだ。 理仁も目だけで父の顔をみた。  父は、力なくその場にすわりこんでしまった。 「とーさん…」 理仁は、どうにか声を振り絞って声を出した。 小さな声のその呼びかけに、父はベットにすがって、よじ登るように伸びあがると、理仁の頬を両手で挟んだ。 「理仁、わかるか?」 理仁は、首だけ振って答えた、父の目から溢れた涙が、のぞき込まれた理仁の頬に額に、はらはらと落ちた。  あまりにも、感情を露にする父に、あっけにとられた理仁は、何度も頷いて見せた。
/85ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加