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こうして夏休みを迎えた頃、本郷櫻子は
紗倉樹と、お隣同士になってしまうという、
マラソン以来、二度目の奇跡を味わっていた。
「ほんとパールと出会ってから不思議なことばかり
だよ、紗倉先輩には、アレ以来、会えないけど」
家財道具の移動及び、種々雑多の小物の取捨選択と
いう作業というのは思っていたより、くたびれるもの
だが、それを乗り越えて本日、目出たく引っ越して
きた本郷親子は、いざ用意して来た菓子折りを携えて、紗倉邸へ、ご挨拶に赴いた。
かしこまった父、本郷崇は、
「初めまして、私、お隣に越してきた本郷という者
ですが、本日ご挨拶に参りました」
と、インターフォン越しに告げた。
「誰もいないのかな?」
「いや広いお屋敷だから室内の移動にも、
時間がかかるんやろ、知らんけど」
防犯カメラによる観察を終えたのか、
かなりしばらくして、「ハイ」と声が聞こえた。
「シバシ、オマチクダサイマセ」
どうやら人間以外の、生き物の発するらしい物音が
近づいて、小さい方の扉が少し開くと、
低い位置から、生き物は姿を現した。
いちいち面倒なので、大きな扉は滅多に開くことは
ないのだろう。
現れたそれは、パールだ。
ハッハッとした息づかいの、落ち着きのない、
いかにも犬らしい振る舞いを見せている。
「トウシュハ、‥‥‥‥‥イラッシャイマス。
(当主は只今、御祖父様と共にご学遊の旅に出て
いらっしゃいます)」と、
すぐ後ろに控えた和服の女中ロボットが言ってきた。
その他、屈強な雇われガードマンが2人、
脇をガッチリ固めていた。
「ソレデハコチラヲオオサメクダサイ。
コンゴトモヨロシクオネガイモウシアゲマス」
状況に呑まれた父の崇は、ロボット女子の口調を
真似て、丁重にご挨拶を済ますと、
改装中の店へ様子を見に行かねばと、自転車で
出かけて行った。
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