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数日前、川崎と沖本は通う大学にて、今とほぼ同じシチュエーションで件の人物・蒼矢と対話する機会を得ていた。
その日はたまたま午後の講義のみだったが、彼からブランチ頃の時間――つまり講義時間より早めに来るよう依頼され、在学生の大半が午前の講義中でまだ閑散としている中央食堂が、待ち合わせ場所に指定された。
蒼矢の案内のもと、一同は黙ったまま食堂内の隅へ向かい、彼と対面して座る。
講義時間前に呼び出した申し訳なさからか、はたまた呼び出しはしたもののいまだ心を決めかねているせいからか、やはりどこか思い詰めた様子に見える彼の内情を、川崎と沖本は各々が想像しうる限りの範囲でおし量っていた。
時系列とタイミング的に、間違いようもなく"影斗の件"なのだろうと察することができていた。
影斗は蒼矢の出身高校の先輩であり、彼らが高校卒業以降も交流を続けている影響から、蒼矢の大学からの友人である川崎と沖本にとっても接点のある人物だった。
長身と均整の取れたスタイルを持つ影斗は、初対面の相手の多くへ鮮烈な第一印象を与える、華やかな雰囲気を醸す美男だった。
大学同士が比較的近いからか、影斗は蒼矢の通うT大へ頻繁に顔を見せた。
黒いフルフェイスに黒皮のライダース姿で、通学手段としては滅多に見掛けない大型バイクで颯爽と乗りつける、その文句をつける隙のないイケメンさに、蒼矢の同級生たちは同性にもかかわらずたちまち彼の虜にされていった。
そして、そんな黙っていても交際相手に困らなそうな影斗が、他大学から足しげく通ってまで一途に好意を寄せているのが蒼矢だった。
蒼矢もまた人目を惹く容姿の持ち主で、"美人"と称していいその顔の造形は、華奢なシルエットもあいまって一見では性の判別をつけがたいほどだった。
そのうえ学業も優秀で、大学入学式で代表挨拶という大役を与えられたことで、初日からセンセーショナル的な衆目を集めた。
その異常な注目度合いが災いし、彼にまつわる騒動に同級生がまるごと巻き込まれたが、それをきっかけに学部全体の絆が深まった過去がある。
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