第1話_新たな歩み

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川崎(カワサキ)はひと息つき、改めて蒼矢(ソウヤ)へ問いかけた。 「わかった。で…その別件についても、今はもうなんともないんだよな?」 「うん。全部終わった」 「それならよかった。話してくれてありがとう」 「俺のほうこそ、君たちには感謝してる。…本当にありがとう」 「ん?」 「ふたりがいてくれなかったら、こうして何事もなく過ごしてないかもしれない。…俺が今ここにいられるのは、君たちのおかげだよ」 言葉の意図が図れず、ぽかんとした表情を並べる川崎と沖本(オキモト)に、蒼矢はそれ以上語ることがないままくすりと微笑った。 「わるい。ちゃんとは伝えられないんだけど、感謝の気持ちだけは受けとって欲しいんだ」 「…? うん…まぁ、くれるっていうなら有難くもらっておくよ」 会話を重ねるとともに、蒼矢の表情から徐々に緊張がほぐれていった。 ふと素の表情になる彼から、内に溜まっていたのだろう本音がぽろりと漏れ出て来る。 「…俺は、自分に正直でいたかったから…影斗(エイト)先輩の望む関係には応えられなかった。俺も先輩も自身の想いは曲げられないから、どんなに代わりの言葉を並べたてても、傷つけてしまうことは避けられなかった」 「…」 「でも…先輩は、最後まで変わらず優しかったよ」 少し頬を染め、思い出される情景を噛みしめるように話す蒼矢に、川崎と沖本は黙ってうなずいてやった。 おおむねの目的部分を共有できたところで、少し早めのランチも食べ終え、おひらきの流れになる。 すっかりリラックスした表情の蒼矢とは対照的に、川崎と沖本はいまだに面差しを強張らせていた。 ふたりひそかにアイコンタクトを送り合い、言い出すタイミングをうかがう。 そして、蒼矢が空のプレートを手に席をたった瞬間、沖本が一声を放った。 「…髙城(タカシロ)!」 「ん?」 「…俺たち、もうひとつだけお前に確認しておきたいことがあるんだ」 洗いざらい事情を明かしたあとになっての問いかけに、蒼矢は立ったままふたりへふり向き、小首をかしげた。 見当がつかないといった風な面持ちの彼へ、沖本はゆっくり問いかけた。 「……お前今、好きな誰かとつき合ってたりするのか?」 蒼矢は、やはりぽかんとしたままふたりを黙って見返す。 「……」 沈黙がおり、彼らをとり巻く空気の流れが止まる。 しかし川崎と沖本は、その時が止まったような空間の中で、見紛いようがない変化をしっかりと捉えることができていた。 「……!!」 ふたりの眼前で、蒼矢の白肌に差す赤みが頬から一気に広がり、首にまでおりていく。 今までにないくらいに見開かれた大きな瞳が、数回瞬いてから細かく震え、ふたりの視線から避けるように足もとへ落ちる。 なにかを言おうと桜色の唇が微かに開くがすぐに噤まれ、音声になる前に言葉は喉の奥へ飲み込まれる。 「…」 川崎と沖本は、蒼矢につられるように揃ってごくりと喉を鳴らしていた。 わずか数秒の光景だったが、その本人も制御しきれない感情の昂りを目にし、回答なき回答を得たのだった。 ――
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