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 段ボールだらけの部屋を前に、ため息をついた。  都心に近いアパート。1DKだが収納と風呂、トイレ付きで、駅から徒歩10分。これで家賃は5万円と手頃な値段だ。  春から大学生になる千咲は、高校時代の先輩から紹介されたアパートに引っ越してきた。  立地と家賃を聞いて、あまりの安さに訝しんだが、実際に見てみると綺麗な物件で驚いた。事故物件なのではと確認したが、そういうこともないらしい。 「引っ越しって大変なんだなぁ」  カーテンのない窓の外は暗い。時刻はとうに21時を回っていた。手続きやら何やらを1日に詰め込んだら、こんな時間になってしまったのだ。  今から荷解きをするのは面倒だ。  とりあえず運んだ、という感じの段ボールの山を恨めしげに見る。私物の少ない男であるので、量はないはずなのだが。山のように積んであるのを見ると、もっと減らせば良かったと後悔する。 「ハァ……」  すぐ使うものだけでも出さないと。  のろのろ動き始めれば、思いの外作業は進んだ。家具が備え付けだったのも助かった。服や本は仕舞うだけだし、ベッドは布団を敷けばなんとかなる。 「―――、―――」 「……ん?」  ふと、何かが聞こえたような気がして、振り返った。何もいない。当然だ、この部屋には自分1人しかいないのだから。 「気のせいか……」  疲れてるんだなあ、残りは明日にでもやろう。  千咲はそう納得して、シーツも敷いてないベッドに潜り込んだ。掃除したてなのか、すっとした薬品みたいな匂いと、千咲が持ち込んだ段ボールの匂いがした。
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