7人が本棚に入れています
本棚に追加
1
段ボールだらけの部屋を前に、ため息をついた。
都心に近いアパート。1DKだが収納と風呂、トイレ付きで、駅から徒歩10分。これで家賃は5万円と手頃な値段だ。
春から大学生になる千咲は、高校時代の先輩から紹介されたアパートに引っ越してきた。
立地と家賃を聞いて、あまりの安さに訝しんだが、実際に見てみると綺麗な物件で驚いた。事故物件なのではと確認したが、そういうこともないらしい。
「引っ越しって大変なんだなぁ」
カーテンのない窓の外は暗い。時刻はとうに21時を回っていた。手続きやら何やらを1日に詰め込んだら、こんな時間になってしまったのだ。
今から荷解きをするのは面倒だ。
とりあえず運んだ、という感じの段ボールの山を恨めしげに見る。私物の少ない男であるので、量はないはずなのだが。山のように積んであるのを見ると、もっと減らせば良かったと後悔する。
「ハァ……」
すぐ使うものだけでも出さないと。
のろのろ動き始めれば、思いの外作業は進んだ。家具が備え付けだったのも助かった。服や本は仕舞うだけだし、ベッドは布団を敷けばなんとかなる。
「―――、―――」
「……ん?」
ふと、何かが聞こえたような気がして、振り返った。何もいない。当然だ、この部屋には自分1人しかいないのだから。
「気のせいか……」
疲れてるんだなあ、残りは明日にでもやろう。
千咲はそう納得して、シーツも敷いてないベッドに潜り込んだ。掃除したてなのか、すっとした薬品みたいな匂いと、千咲が持ち込んだ段ボールの匂いがした。
最初のコメントを投稿しよう!