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 この部屋が奇妙なことに気がついたのは、わりとすぐの事だった。  例えば、消した筈の電気が点いていたり。  例えば、夜に起きると水道の蛇口が開いていたり。  例えば、トイレから戻ると物の配置が変わっていたり。  そういった、気のせいと言われればそうかもしれない、些細な出来事が続いた。  千咲は特段に怖がりというわけでもないが、些細な出来事も重なれば不気味に思う。とはいえすぐに住居を移すのは難しいし、泊めてくれるような友人も近くにはいない。 『それでしぶしぶ帰って、僕に電話をかけて来たって訳か』  イヤホン越しに聞こえる声に、千咲は「悪かったな」とぶすくれた声を返す。声の主は『別に悪いなんて言ってないじゃない』と笑った。面白がっているのが声からでもわかる。  電話の向こうにいるのは、幼馴染みの海原いるかだ。長い付き合いの友人という事もあって、進学先が別れても頻繁に連絡を取り合っていた。 『やっぱり僕も内見行けば良かったね』 「馬鹿言え、先輩になんて説明すりゃいいんだ」 『それもそうだ』  いるかは昔から、心霊現象や怪異に対する造詣が深い。趣味ではなく本当に見えるのだという。千咲自身、彼が不思議なことを言ったり、引き起こしたりするのを目の当たりにしているので、今さら疑ったりはしない。  だが、千咲が信じているのと、周囲からどう見えるかは話が別だ。内見に地元の幼馴染みが付き添うのは、流石に奇妙に映るだろう。千咲にここを紹介した先輩は、幽霊を信じるタイプではない。いるか本人は己の外聞を全く意に返さないが、千咲としては彼が奇異の目で見られることは避けたかった。
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