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「入れて」
弾かれるようにして部屋に戻った。ベッドに飛び込んで、イヤホンの入った耳を押さえる。
「お、お前の姿で外にいる! 何で……」
『電話で繋がってるからかな……それか、僕の写真とか飾ってあったりする?』
「あったら逆に怖いだろうが……! あ、いや」
『えっ、ウソ、あるの? こわ……』
「違う! 卒業旅行の時の」
『ああ』
いるかは呑気に納得した声を出す。『意外とそういうの大事にするよね』なんて、失礼な揶揄いが今は助かる。誰かと話していないと気が変になってしまいそうだった。
「……なんか、だんだん腹立ってきた」
落ち着くと、怒りが湧いて来た。どうして自分がこんな怖い目に合わねばならないのか。ただ、引っ越してきただけの、普通の大学生なのに。
「ちょっと先輩に聞いてみる」
『いいけど、通話は切らないでね』
「メッセ入れる」
通話を切らないように気を付けながら、メッセージアプリで先輩に連絡を入れる。幽霊が出たなんて言ったら馬鹿にされるのが目に見えているので、自分の前にどんな人が住んでいたのかを訊くことにする。ユウジロウって人の忘れ物があったとか、適当な理由をつけておく。
たぷたぷとメッセージを打ち込んでいると、だんだん怒りも凪いできた。
千咲の怒りは熱しづらくて冷めやすい。生来とても穏やかな男だった。当然、いるかはそれを見越して、好きなようにさせていた。
『落ち着いた?』
「うん。……着替え準備する」
『あと1時間くらいで着くからね』
「わかった。面倒をかける」
千咲の言葉に『何を今さら』と、電話の向こうの親友が笑った。
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