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そういえば、なんで扉の外にいたんだろう。
着替えをボストンバッグに詰め込みながら、ぼんやりとそんな事を思った。
最初に聞いた声は、明らかに自分の後ろから聞こえた。なのに、外からインターホンを鳴らして入ってこようともする。
「……もしかして、複数いるのか?」
『どうかした?』
独り言ちた言葉にいるかが反応した。千咲は「ああ、いや」と言い淀みながらも、考えを伝える。どうにも不安が大きくて、心に留めておくことができなかった。
『その仮説は正しいと思う。その女の人達は、その部屋にかつて居た‘‘ゆうじろうさん’’っていうのに執着してるんだ』
彼は疲れたような声をしていた。千咲が「何かあったのか?」と尋ねると、『声が煩くて』と返事が返ってくる。
『彼女たちは部屋にいる千咲くんを‘‘ゆうじろうさん’’だと思い込んでいるし、部屋に入れば会えると思ってるんだ』
「そんな……」
『幽霊ってのは思い込みの塊なんだ。厄介なのは、誤解を解くことが難しいということ。たぶん幽霊同士はお互いを認知していないよ。でも、全員が‘‘ゆうじろうさん’’を求めている』
それほど大勢の女性から求められるとは。
「何者なんだユウジロウ……」
深くため息をついた時、ぱ、ぱ、ぱ、と頭上の蛍光灯が点滅した。室温がわずかに下がったような気がする。体をすくませていると、ふっと明かりが消えた。
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