7人が本棚に入れています
本棚に追加
「で、電気が……」
『霊障かな。危ないから、走り回っちゃだめだよ』
「そんなこと言ったって……」
ひとまず、電気をつけなければ。手探りで立ち上がろうとした手が、つるりとした家具を探し当てる。クローゼットだ。
「?」
ふと、眉を寄せた。視界を奪われて鋭敏になった聴覚が、かすかな音を捉えてしまう。
カリカリ……カリカリ……
引っ掻くような音が聞こえる。クローゼットの中から。
ぞわぞわと悪寒が戻ってくる。ずっと嫌な汗が止まらない。操られたかのように身体が勝手に動く。開けたくないと念じながら、クローゼットの扉に手をかけた。
ギ、ギギィ……
軋んだ音とともに徐々に露になっていく暗闇。そこに、ぽっかりと白いものが浮かんでいた。
顔だ。
女と目があった。黒い髪をした白い顔の女が、クローゼットの中に逆さまに詰められていた。
「ひ……」
ひきつった声が出る。女は虚ろな眼差しで千咲を見上げ、ニタリと嬉しそうに笑った。
「ゆうじろうさん」
その瞬間、千咲は音の濁流に飲み込まれた。
最初のコメントを投稿しよう!