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「で、電気が……」 『霊障かな。危ないから、走り回っちゃだめだよ』 「そんなこと言ったって……」  ひとまず、電気をつけなければ。手探りで立ち上がろうとした手が、つるりとした家具を探し当てる。クローゼットだ。 「?」  ふと、眉を寄せた。視界を奪われて鋭敏になった聴覚が、かすかな音を捉えてしまう。 カリカリ……カリカリ……  引っ掻くような音が聞こえる。クローゼットの中から。  ぞわぞわと悪寒が戻ってくる。ずっと嫌な汗が止まらない。操られたかのように身体が勝手に動く。開けたくないと念じながら、クローゼットの扉に手をかけた。 ギ、ギギィ……  軋んだ音とともに徐々に露になっていく暗闇。そこに、ぽっかりと白いものが浮かんでいた。  顔だ。  女と目があった。黒い髪をした白い顔の女が、クローゼットの中に逆さまに詰められていた。 「ひ……」  ひきつった声が出る。女は虚ろな眼差しで千咲を見上げ、ニタリと嬉しそうに笑った。 「ゆうじろうさん」  その瞬間、千咲は音の濁流に飲み込まれた。
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