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「俺は、ゆうじろうじゃない!!」  気がつけば叫んでいた。  その瞬間、ぱっと電気が点く。  クローゼットの中には、誰もいない。  はあ、はあ、と荒くなった息を整えながら顔に触れると濡れた感触がある。泣いていたらしい。 『大丈夫?』 「だいじょばない……」 『泣いてるじゃん』 「これは、泣くだろ」  ようやく聞こえた友人の声に、つい安心してしまう。  ピロン  携帯の通知音に身体が跳ねた。震える指で画面を操作すると、先ほど先輩に送ったメッセージに返信が来ていた。  正直、怒りなんてものは萎みきってしまって、一刻も早くこの部屋から出たいのだが、目を通すことにする。 『前の住人は女だったからユウジロウなんて名前じゃないぜ。ただ、このアパートの前の所有者がそんな名前だったかな。でも、そんな人の忘れ物なんてあるはずないだろ? 2年も前の話だし』 「ユウジロウは、このアパートの元所有者だったらしい」  手に入れた情報を告げれば『へえ』と相槌が返ってくる。 『築5年くらいだっけ? そのユウジロウさんの名字とかわかる?』 「それは聞いてな……いや」  千咲は首を振った。
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