影を知る子

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 男は銀座のクラブの特別室で女の子の面接に立ち会っている。女の子は大学三年生、年齢は二十歳である。育ちの良さそうな子が何故面接を受けているのかと男はママに尋ねた。  女の子の父親はクラブの常連客であったが事業に失敗し、多額の負債を抱えてしまった。男の父親が負債を肩代わりし、女の子と母親の面倒を見ることになった。女の子が大学を卒業したら、男の父親が経営する会社に雇っていい人材か面接してみることにしたというわけである。面接を会社でするのではなく、出資している銀座のクラブでするあたり、父親とママは相談済みなのだろうと男は察した。  蝶よ花よと育てられた女の子は、今回の騒動に動揺しながらも新しい環境に馴染んでいこうとしているようである。そこで男は卒業するまでの間、社会勉強のつもりで時々はクラブで接客してみることを提案した。女の子は快諾した。  面接を終えて、男が女の子を指名する形で、女の子の歓迎会に移行した。  女の子の歌声を聞いてみたくなった男は、何曲かデュエットしてみた。女の子の父親のレパートリーから選曲したので、聞き覚えあるらしく、まずまずの歌声である。  見果てぬ夢が ある限り という歌詞は聞きごたえあり、男の記憶に残った。  その歌声は 再起を目指す父のためにでもあり 自分のためにでもあり
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