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二歳上の兄、田中修也とわたしの友人で絶賛喧嘩中の桜橋佐奈は付き合っていた。
『佐奈がいれば僕は』
とデレデレとした兄を見てわたしと両親はホッと安堵していた。
『高卒したら学生結婚するかもしれない。どうしよう~茜』
佐奈を部屋に招き入れては恋ばなをしていずれ家族になるかもしれない友人の嬉しそうな顔を見たとき、本当に幸せだった。
だけど、就活に惨敗した兄は不平不満を口にするようになって。
『五十社落ちたくらいで、メソメソするな!!』
父は昔ながらの人で仕事とプライベートをしっかり区別する人。どんどん闇に落ちていく兄に、火をつけたのは父。
*
#壊れてしまえ
ハッシュタグ付きで投稿した日は、佐奈と最後のデートをしていた日でもある。
『修也さん、ヤバイって』
ヤバイってと言いながらどこか楽しそうで、他人事のように言っている佐奈の声が聞こえて。
『僕一人でやるから佐奈は知らんぷりしてて』
購入した岩塩を小さなビニールポケットに入れ、警察が巡回中の場所をわざと通りそれを落としていく。
『これはなんですかね?』
職務質問される兄の姿を震える手で録画していたのはまぎれもなく佐奈でそれをシェアし、佐奈だけ例の動画を消した。
「せいせいするよ。兄を貶めた佐奈と別れられる」
佐奈がやめろと一言言ってくれたら、変わっていた。そばにいて支えるなんて照れながら言ってくれた言葉も全部嘘だったなんて。
「二十歳になってまだ不満を言う男だったなんてよかったー別れて」
壊れてしまった友情、そして家族。住み慣れたマンション。
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