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「三年生になるまでは、一人で祠に来ちゃいけないことになってるんだ。だから、今までと同じようには掃除に来られません。ごめんなさい、神さま」  そう謝ってから、申し訳なくて身をかがめた伸吾に、地主神は優しい声で言った。 「気に病むでない、伸吾よ。何年もの間、だれもこの祠に近づかぬこともあった。みな、わしのことを忘れてしまったのかと思うと寂しかったぞ。有三やおまえは、よく顔を見せてくれた。わしの好きな花を、こまめに供えてくれた。少しぐらい顔を見せなくても大丈夫じゃ。わしは、地主神としての役割をきちんと果たすから何も心配はいらぬ」 「ありがとうございます、神さま」  伸吾がほっとして顔を上げると、地主神の福々しい笑顔が目の前にあった。  この()が、一人で寂しく座っている姿を思い浮かべると、伸吾はとても切なくなった。だから、毎月は無理でも、ふた月に一回は祠に来られるように父に頼もうと思った。 「のう、伸吾。わしとちょっと遊んでいかぬか?」 「えっ? 神さまと遊ぶの?」 「有三が子どもの頃は、よく一緒に遊んだものじゃ。二人で『物探し』をしてな! 先に見つけた者は、ここへ戻ってきて百数えるのじゃ。もう一人は、その間に見つけること。見つけられなければ負け、見つけられれば引き分けじゃ。では、最初のお題は、『まん丸な石』ということにしようかの」 「あ、あの……」 「ようい、始め!」  伸吾が、まだ返事をしていないのに、地主神は「物探し」を始めてしまった。  石が転がっていそうな場所を見つけ、嬉しそうに駆けていく。 (神さまっていうのは偉いから、やっぱり、ちょっと自分勝手なんだな)  そう思いながらも、地主神と遊べることが楽しくて、伸吾は急いで丸い石を探し始めた。  地主神と伸吾は、勝ったり負けたり引き分けたりしながら、丸い石やセミの抜け殻、クヌギの袴など様々なものを森から見つけ出した。祠の小さな森が自然豊かで面白い場所であることを、地主神は伸吾に教えてくれたのだった。 「さてと、そろそろ親父どのの目を覚ましてやるかな? 久しぶりに思い切り遊べて楽しかったぞ、伸吾」 「おれもすごく楽しかったよ、神さま!」 「それは、良かった! また、ここに来てくれよ。わしは、いつでもここにおる」 「うん。また、きっと来る! 来ます!」 「ではな!」  少しだけ寂しげな笑顔を残して、最後の言葉と共に地主神は伸吾の前から姿を消した。 「伸吾、そろそろ帰るぞ!」 「えっ? うん!」  いつ目を覚ましたのか、父親は何ごともなかったかのように、掃除道具を抱えて伸吾の横に立っていた。森の外へ出ると、祠に着いたときとそれほど日の高さは変わっておらず、伸吾は不思議な感じがした。 (神さまと一緒にいる間は、時間が止まっていたのかな?)  伸吾は急いで振り返ると、森に隠され見えなくなった祠に向かって、ぺこりと頭を下げた。
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