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⑥
何でも知っていると言われても、伸吾はきちんと説明したかった。
自分も起きて地主神の隣に座り直すと、知っていることをすべて話した。
地主神は、ふんふんとうなずきながら面白そうに話を聞いていた。
「ずいぶんと丁寧に、わしを追い出してくれるのじゃな?」
「追い出すんじゃなくて、お引っ越しだよ! 新しい祠は、きれいで丈夫で大きいって父ちゃんが言ってた。きっと、神さまも気に入ると思うって」
「そうかのう?」
地主神はそう言ってから、新しい祠を思い浮かべるような顔をして目を閉じた。
伸吾は、地主神が新しい祠を気に入ってくれることを願いながら、黙って座っていた。
しばらくすると、目を閉じたまま地主神が口を開いた。
「うむ! 良い祠じゃ! 村の皆の気持ちはようわかった!」
「じゃ、じゃあ、新しい祠に引っ越してくれるんだね?」
地主神はそれには答えず、その場に立ち上がった。
慌てて伸吾も立ち上がる。
「伸吾、引っ越しの日には、おまえも必ず来るのじゃぞ! おまえが来ぬなら、わしはここの祠を出て行かぬからな!」
「わ、わかりました! 必ず来る! 来ます!」
「約束じゃぞ。さて伸吾、そろそろ帰るが良い。おまえの妹の明日花が、宿題を手伝って欲しいようじゃ。おまえの帰りを待っておる」
「あっ! 母ちゃんが出かけてるから、俺が音読を聞いてやるんだっけ!」
「仲が良くて、何よりじゃ。ではな、伸吾!」
気づけば、伸吾は、堤の温かな草の上にたった一人で立っていた。
祠に戻ると、干しておいた草を袋に詰め道具と一緒に手に持った。
そんなに長く干していたわけでもないのに、雑草はからりと乾いて、心地よい日向の香りを漂わせた。
(きっと、神さまが乾かしてくれたんだ!)
伸吾は、いつものように祠に向かって丁寧に頭を下げた。
どこからともなく吹き付けてきた風に混じって、一生懸命音読をする明日花の声が聞こえたような気がした。伸吾は、荷物を抱え懸命に道を走った。
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