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「ほんと、志那川さん無理なんだけど!!」
八割方女性で占められたカフェで、真奈美はデミグラスハンバーグにナイフを突き立てた。
「ああ、さっきのアレ? でもあれはさ、私があんなこと言っちゃったから……」
「でもだからって、あんな言い方はないじゃない! というか、いつもじゃない、あの感じ!」
「あの感じ……いや、今日はなんかちょっと違かったような……?」
「ううん同じよ同じ! 感情がなくて冷たくて……見下しているの、私たちを!」
その「私たち」に確実に含まれている、彼女の敬愛してやまない彼。むしろ自分よりよほど、その彼に対する反応に腹が立って仕方がないらしい。
「きっとあの人からしたら、私たちなんていてもいなくてもどうでもいい存在なんでしょうね!」
「いや、それはさすがに言いすぎ――」
「いやいや、絶対内心そう思ってる! っていうか態度に出てるし! きっと使えない奴だって思ってるに決まってる!」
「そうかなぁ……」
真奈美はハンバーグをぐさぐさと細かく切り分けた後、「これ何度も言ってるって分かっているけど言わせて!」と前置きをしてから、こぶしを握って熱く語り始めた。
「私、こっちの部署に移ってくる前ね、この会社、辞めるつもりだったの。毎日毎日、何をやるにも否定され続けて。でも、こっちに来て、麻乃さんに一から教えてもらって。それからよ、仕事に少し、自信が持てるようになったのは。で、その後に彩夏が中途で入ってきてくれて。今……私、ようやく心からこの仕事が楽しいって思えるようになったの。それを、あの人は……!」
嬉しいことを言ってくれもする彼女だが、ますますのヒートアップっぷりに隣のお客の怪訝な視線も無視できなくなってきた。
彩夏は慌てて話題を逸らす。
「にしてもさ、心配だよね、麻乃さん。滅多に休んだりしないのに」
「そうだよね……」
瞬く間にしょんぼりとしてしまった真奈美。少し可哀そうな気持ちにもなったが、でも、彩夏としても気になっているのは嘘ではない。
「風邪だって、果歩さんは言ってたっけ」
「うん。でも、結構しんどそうだったって……」
真奈美の表情がますます暗く沈んでいく。
実際電話を受けた、時短勤務で朝早い宮下果歩いわく、「今日だけお休みさせてほしい」というわりに声が辛そうだった、ということだった。
「確かに最近、少し寒くなってきたなと思ったら急に流行り出したもんね」
「そうね。しかも、結構長引くらしいし……」
いっそう不安がる真奈美を前に、彩夏の脳裏にあることがよぎった。
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