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「ねぇ……麻乃さんって、独身だよね?」
「うん、確かそうだけど……えっ、まって、もしかして彩夏まで麻乃さんのこと……!?」
大きな目を極限まで見開く真奈美。まるで漫画かと思うようなオーバーリアクションに、彩夏は呆れて首を横に振った。
「いやいや、一緒にしないでくれる?」
「だって、そんなこと言われたら……ねぇ?」
「……ねぇ? じゃないから。私はただちょっと、気になったってだけで……」
「気になるって……何が?」
当然そう突っ込まれ、途端に口ごもる。ただ、ここまで言っておいて「やっぱり何でもない」はさすがに許されないだろう。
無駄に目を輝かせてこちらを見つめる真奈美に、彩夏は観念して口を開いた。
「誰か、こういうときに頼れる人、麻乃さんにいるのかな……ってさ」
彩夏はさらに、「私も昔話していい?」と続けた。
「この会社に来る前のことなんだけどね。私、ひどく風邪をこじらせたことがあって。頭は死ぬほど痛いし、身体も全然言うこと聞かなくて。でも、家族に頼ろうにも遠すぎるし、彼氏もいないしで……ほんと心細くってさ。もう二度と経験したくないって思った」
「それは最悪すぎるでしょ……」
「で、麻乃さんは大丈夫なのかなって、ふと気になったってわけ。でもまぁ、一日だけ休ませてって言うぐらいだから、そう大したことないのかもしれないけどね」
そう結論付け、彩夏は妙に麻乃を心配した自分がおかしくなった。
相手は大の大人も大人、自分より十近く年上の男なのだ。どうやら知らず知らずのうちに真奈美の影響を受けていたのかもしれない。
それに気付くとなおさらきまり悪くなり、彩夏は冷めはじめたポークカツレツを平らげることに集中しようとした……のだが。
「ねぇ、彩夏」
「ん……なに?」
「麻乃さんって、アルファっぽくない?」
「……!!」
いきなり飛び出してきたその単語に、彩夏は危うく味わっていたそれを喉に詰まらせそうになった。
「……ッ、ちょ、ちょっと、いきなり何!?」
突然話題に出された『第二性』に、ぎょっとして辺りをうかがう。幸い声のトーンを落としてくれていたおかげで、またさっきみたいな視線を向けられずには済んだが……それにしても、こんな風に軽々しく口にしていい言葉でないのは確かだった。
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