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第二性――それは、男性、女性のほかにある性別のことで、アルファ、ベータ、オメガを指す言葉だ。
生物学上の男女間で子をなすベータ。女性相手だけでなく、オメガであれば男性でも妊娠させられるアルファ。反対に、性別を問わずアルファとの性交で高確率で妊娠できるオメガ……この辺りは義務教育を経た人間であれば誰もが知っていることだ。
でも一方で、おいそれと話題にしてはいけないと何度もたたき込まれていることでもあった。その原因はいくつかあるが……主には「偏見や差別を助長しかねないから」。そう、この多様性が叫ばれてずいぶん経つ現代においてなお、第二性に関するそれらは完全に消えたわけではないのだ。
……とはいっても、世の中の大半はベータであるわけで。そういう人たちからすれば、アルファやオメガというのはどうにも神秘的であり、何だかんだ興味関心の向いてしまうことでもあるのだった。
「だって麻乃さん、仕事できるし、優しいし、イケメンだし! もうずばりアルファって感じじゃない? で、もしアルファだったら、誰かしら彼女……か、もしかしたら彼氏とかいるんじゃないかなって。だったら心配いらないでしょ?」
でもいたらいたで嫌だけどね~と矛盾したことを付け加えながら真奈美はハンバーグの最後の一切れを頬張った。
「イケメンというのはまぁ、好みによるとして……でも、あり得なくもないかも。麻乃さん、ガンガン前に出るタイプじゃないけど、縁の下の力持ちって感じで頼りがいあるもんね」
「でしょでしょ?」
「実際、あの環境で何とか踏ん張ってこれたのも、間違いなく麻乃さんがいてくれたおかげだし」
「うんうん!」
「でも、その理屈でいったら、志那川さんだって――」
そこまで言って彩夏はしまった、と口を噤んだが……時すでに遅し。
「あの人と麻乃さんを一緒にしないで!!」
吊り上がった目をさらに吊り上げた真奈美に、彩夏は自分の不注意さを呪った。
「あの人はぜんっぜん、アルファとかじゃないから!」
「……そう?」
その瞬間またぎろりと睨まれ、彩夏はさっと視線を逸らす。……が、少し真奈美もやり過ぎたと思ったらしい。
「でも……分かるところもね、あるにはあるのよ」
苦虫を嚙み潰したような顔で、そう続けた。
「あの人、確かに仕事は早いし、やることに無駄がないし、私たちの一歩も二歩も先を行っているな、って思わなくもないの」
しかめっ面をしながら真奈美はしぶしぶそう言うが……彩夏もそれには全くの同感だった。
志那川の仕事のスピード感は正直、驚かされることばかりだった。そして、ただ速いだけでなく、その次の手、さらに次の手まで考えた上で彼が出す指示は的確で、さすが若くしてここまで上り詰めた人なんだ、と納得してしまうことが何度もあった。
「それに……まぁ、一般的には? イケメンの部類に入るかもしれないけども……でも!」
真奈美はそこで一旦区切ると。
「あの人には、人の心ってものがないじゃない!」
またもやそう語気を荒げたのだった。
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