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「……ッ!」
手の中で熱いものが弾けた感覚。そしてすぐ、後ろがまたじわりと濡れる。
ベッドの中で悠人は一人、熱く疼く身体を持て余していた。
「う……っ」
あらかじめ下に敷いておいたバスタオルが、すでにぐっしょりとして気持ち悪い。それなのに、ひくつくあの場所をはやく埋めてしまいたくてたまらなかった。
「ぅ……、ふぅっ……!」
くちゅりと音を立てながら、自分の中指を切なくわななくそこに突き入れる。
「……っ、ん……っ」
漏れる声を殺そうとシーツを噛み締めるが、鼻から抜ける音だけはどうしようもなく、顔を枕に押し付けて耐える。
指は勝手に二本、三本と増えていき、下から聞こえる水音もより下品なものへと変わっていく。
「……ンッ、~~っ!!」
ぞわぞわっと腹の奥から全身に広がる、目のくらむような快感。前でイくのとは比べ物にならないその甘いしびれに、頭が真っ白になり、咥えていたシーツが口から滑り落ちた。
「はっ、ぁっ……、はぁ……」
ひとときだけ熱が落ち着いていく。
すると徐々に、ごまかすために付けていたテレビからローカルの情報番組の音がはっきりと聞こえてきた。
『ただいま○○動物園に来ております! 今朝、こちらではなんと、可愛いレッサーパンダの赤ちゃんが一般公開されたんですよ~!』
「あ、そうだ、今日からか……」
ネット版に記事を載せていたことを思い出す。昔から仲良くさせてもらっている園長からも、『ぜひ遊びに来てくれ、だそうですよ』と取材に行った彩夏伝いにチケットまで貰っていた。
休みの日に見に行こうかなと思っていたが、今週の日曜日はさすがに出勤して溜まった仕事を片付けるしかないだろう。
『麻乃さん、ちょっといいですか』
「……っ」
仕事のことを思い出したせいで、今、一番思い出したくない声まで思い出してしまった。
『この企画ですけど、本当にやる意味あると思ってます?』
今年から自分の上司となった年下の男の低い声が、生々しく再現される。
彼――志那川智哉のそんなもの言いにも、もうすっかり慣れてしまった。が、それでも最初は、カチンとくることも少なくなかった。
何より、もしかしたら……と不安にもなった。
悠人は自分の第二性を公言してはいない。しかし、入社するときに申告する義務があるため、上層部の何人かは自分がオメガであることを知っているはずだった。となれば、彼がここに配属される際、「念のために」と知らされている可能性はなくはない。
そう、彼はアルファだった。
初めて顔を合わせた瞬間から、間違いなくそうだと分かる匂いだった。
『初めまして。今後こちらのマネージャーを務めさせて頂く、志那川と申します。どうぞよろしくお願いします』
眼鏡の奥の鋭い眼光と、氷のような冷たい声。
もはや何の意味もなくなった場所であるうなじを、それでも無意識に庇いたくて仕方がなくなったのを今でも鮮明に覚えている。
その通りアルファであることを隠そうともしない彼のことだ。自分がオメガであるのを知って、下に見てくるのではないか――
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