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剣呑(1)
豪雨が降り続いている…………。
ザァァァーーーーーーーーーーッという強い音が、外では鳴り止まない。
「……あ〜〜あ、こんな天候なのに、行くってぇのか……ホントついてねぇなぁ……はぁぁぁ〜〜」
あくびをして、愚痴をこぼし、ため息をつきながら、男の騎士は命じられた任務の準備を進めていた。
鎧を着用した彼は続いて、各部位の装甲板を確認した。
新しい鎧には、汚れひとつない。
次に腰のベルトへ剣を下げた彼は、任務のために与えられた水を弾く生地で出来ているフード付きのマントも頭からかぶった。
……。
お、おおお〜〜〜う……ぴったり……。
マントはちっとばかし……でっけぇけど……。
……いい、こいつはいいぜ。
戦う修道士、聖地騎士みてーじゃねーか。
あーーただ、行く前に髪は切っといた方がよかったかもなぁ〜〜。
……そーいや……エーファちゃんは城から出ていく前、マリアに髪きってもらったんだったなぁ……エーファちゃん、どうなっちまったんだろ?
……あーーエーファちゃん、抜群に……可愛いよな……。
ちっちゃい頃から、一緒に遊んでたあのマリアとは大違い……だぜ。
…………あ〜〜あ……いけねぇいけねぇ……あいつのことなんか、考えちゃいけねえ……俺はあいつが嫌いなんだ、嫌い……なんだから……。
暗い瞳の彼は椅子へ立て掛けていた盾を持ち、鏡の前で自らの姿を確認していた。
その彼の耳にコンコン、という音が聞こえてきた気がした。
最初は平屋の屋根を叩く雨の音なのかとも感じたが、彼はドアに近寄り「……はい?」と声を上げてから、木製のドアを開けてみた。
ドアを開けると、そこには彼よりも年上の女が立っていた。
その女を目にするや「……せ、せんせぇ!? ……お、おはようございまっす!」と反射的に述べた彼は深々と頭を下げた。
「おっはよ〜。忙しいのにごめん〜。忘れてたものがあって、来ちゃった〜」
「は……はい。お入りください」と、彼。
「うん。ありがとう。……はっと気づいてさ、とび起きて、すぐ来たの。ねむねむ、にゃの……」
片目を眼帯で覆っている女は部屋へ入れてもらった。
彼がドアを閉めると、あくびをした片目の女が聞いてきた。
「ふあわぁ〜あ……ぁ、ねぇ、ねぇ……どう? どう? よろい〜〜」と。
「ぁ、は、はい。今、装着しました。……これを見てください」
彼はつやつやしているマントをめくった。
先生「あ……いいじゃない。……うん、うん。いい、いい……。……ここらへんの色も、わたしが着ていた試作品とは変わったね……動きやすい?」
彼「はい。とても動きやすいと、感じまっす」
「そっか〜。よかった〜。えへへっ、似合うよ〜〜」
笑顔をつくる片目の女に彼は照れた。
「ど、どうも……へへへへ……」
マントを触った片目の女が言った。
「ふりふり、ふりふり〜〜マント……大きく、作られているでしょう?」
あまり褒められたことのない彼はもじもじしている。
「は……はぃ……そうっすねぇ……」
先生「隣国との戦の時にはね……マントでくるくるって……敵兵の攻撃をからめ取って、戦う人もいたんだよ。……わたしも見たこと、あるもの。だから、古参兵のマントはぼろぼろになってるのが多かったんだ。……そういう戦い方は、みんなに教えてなかったね。……日光や熱を遮る以外にも、マントには便利な使い方があるの」
「……そう、なんすか……へぇ〜〜〜」
マントをつかむ片目の女の話に彼は聞き入った。
「そうそう。……おっと、これこれ。これを……渡しに来たんだった」
片目の女は握るのにちょうど良い太さの棒を手渡してきた。
「? ん……これは?」
受け取った棒状のものを見ながら、彼は返した。
「うんうん。……それね、にょきにょきのつるぎって、わたしは呼んでるの」
にこやかな片目の女に対し、彼は困ってしまった。
「にょ、にょきにょき、のつ、つるぎぃぃ??? にゃ、なんすか、それぇ!?」
にこにこした片目の女が続けた。
「それさ、ビューンってのびて、出てきた剣の刃が相手をドンって突けるやつなんだよ。……わたしにはもう、要らないものだから……あげちゃうよぅ。授刀〜〜!」
「へっ!? え、えええええ〜〜〜……そそそそ、そんなもの、ぁぁぁあるんすかぁ?? にょき、にょき?? ん……?? つるぎ……ということは、これは武器ぃぃか、何か、なんすかぁ??」
目を丸くした彼が握った棒を見るや、片目の女が言った。
「そーそー剣なんだって、そんなものがあるんだって。わたしもわたしがわからないんだって。……正式名称は違うんだけどね。シャルゥラン・カーコルディウッシュカ……この国の人には発音が難しいよね。……海外にいたとき、コレあげるって武器職人さんからもらったんだ。鍛えた刃を魔法で加工して、造った品〜。……えへっ……のびて、ビューンだよ! それ、柄を握ってる人が伸びろって思っただけで、伸びる便利なものなんだから。で……短くしたくなったら、そう念じるだけで短くなるの。……ビューン、にょきにょき〜〜するするする〜〜〜なんだよ!」
「えっ? にょきにょき!?? ビューン?? するする〜〜??」
満面の笑みを浮かべて、不可解な説明をする片目の女に対し、彼は当惑するばかりであった。
「ほら……じゃ、わたしがやってみるよ。見てて……」
片目の女は言うと、相手から棒を受け取った。
すぐにギラギラと反射する刃が棒から突き出し、部屋の壁に向かって音もなく伸び始めたではないか!!
壁を貫いてしまうぎりぎりのところで尖った剣先はぴたりと静止した。
「…………!!!!!??」
目前の出来事に彼は声を発せなかった。
ザァァァーーーーーーーッと、雨の音だけが響く。
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