剣呑(2)

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剣呑(2)

 黙る彼へ片目の女が、先生らしく話した。 「……ね? こんな具合に好きな長さにできるの。最大に伸ばしたら、刃はこの六倍ぐらいの長さに伸びるかな? そんなに長い刃はこの柄の内部に収まらないでしょ……と思うだろうけど……そこは魔法にゃの。不思議なものにゃの。……これは握ってる人の思ったままに刃を伸ばしたり、引っ込めたりできるんだ。この形からして、強力な武器だとは誰も思わない〜。……あまり伸ばすと、刃の部分が重くなるからそれだけは注意してねぇ。あと、柄自体は伸ばせないから。刃が折れたり割れたりはしないよ。魔法で守られてるの。叩き斬るよりも突き刺したりして、使った方がいいかも〜。刃の付いている武器は何かに突き刺さったら、引き抜くの大変なときがあるんだけど、これならすぐにするするって、思うだけで刃が手元に戻ってきてくれる。……ね〜〜すごいでしょっ……これで任務は安心〜〜〜!」  にこにこする片目の女は握っていた棒へ恐ろしいほどに拡散反射する刃を引っ込め、それを彼に返した。 「……は、は、はぃ……あ……ぁぁぁぁ……ありがとう、ございまっす…………」  正直なところ……何がどうありがたいのか、よくわからなかったが、こんな物はこの国ではまず見られない貴重で、確かに便利な物なのだということだけは彼にも理解できた。  片目の女はいきなり別人みたいに、きりっとして述べた。 「……ローベルト君。彼女たちが現在、どこにいるのかはわからない。一人で戻ってきたアンゲリカの報告から、誘拐されたユリア様を追いかけて行ったと思われる。ユリウス殿が彼女たちと一緒に行動しているのか、これもわからない。彼は二人いる自身の兄へ事情を伝えて助けを求めた、とも考えられる。そこで……ローベルト君は、彼らの捜索とさらなる情報を収集するためフライヘア邸へ向かう。……白龍騎士団は動いていない。屋敷に同騎士団の増援部隊はまだ来ていなかった、とアンゲリカは言っていた。襲撃事件を報せるレオポルト殿かマックス殿からの使いもここへは来ていない。……よって、人命保護の観点からこちらが先に動く、と……こんなふうに教官長からは聞かされたと思うんだけど……これでよかった?」  眼帯に覆われてはいない方の目から冷たい光をはなつ女の言葉に彼・ローベルトは「……ハッ! そう言われました!」と、直立不動で返した。  そして、「うん」と、うなずく片目の女へ彼は歯切れが悪く述べた。 「……あ、あのぅ、ただ……先生……ちょっと、腑に落ちないとこがあるんですが……」と。 「どうぞどうぞ」と、片目の女。 ローベルト「……あの〜こんなに派遣任務が延長されることになるって、当初アマンは考えてなかったって、俺らに話していました。……白龍騎士団……って国内最強なんですよね? こっちに任せっきりで……いーんでしょうか? ……自分たちの担当してる領土内でのことじゃないすか。……そんなに、クロブラーム領って危ねえところになってんでしょーか? お……俺だけで、大丈夫なのかなぁ〜って……」 先生「……うん。それはそう思うだろうね。君の考えはもっともなこと。わかるよ、ローベルト君。んーっと……白龍騎士団は、その内部で三つぐらいに派閥が分かれてて、仲間同士で争ってた時期があって……内輪割れの後、団長が交代して組織が再編成されて……終戦を迎えてから、さらに団員が入ってきたり出ていったりなんかして……領土の治安維持のために各所へ割り振る団員を確保できなくなったんだ。……どうしてそれをわたしが知っているのかというと、わたしの友達が同騎士団を退団してね、酒場で会ったわたしに教えてくれたからなの」 ローベルト「……。は……はい……素的(すてき)なご友人がおありですね、先生……」 先生「ありがとう。わたしの生徒である君もその一員だよぉ。ローベルト君は門下の俊英にゃの! で……今、手渡した……その、にょきにょきのつるぎがあれば、へーき!! わたしはそれを知っているぅ。君は全ての剣技を修めたし、このひとり部屋も得た実力者なんだもん!」  雷光が大粒の涙を流して泣き止まない空を照らし、ゴロゴロゴロ……と、不機嫌な音が鳴った。 ローベルト「……ぅん?? ……ん、んんーーーー……そぅなんですかねぇ……?」 先生「そーなの。上手くできるはず! ……あれ、なんだっけ……そ、そう、にょきにょき? ……でも、教えた剣技は使える! ローベルト君ならば、それを使いこなせる。……現場を見に行って、まずは建物を確認して。誰かがそこにいたら、よく話を聞いて……彼らの後を追うか、こっちへ戻るかは、ローベルト君自身が決めてくれていいから。……行ってみたら、いろいろわかるよ。領土の現状も含めて……その場での判断を優先して……にょきにょき〜」 ローベルト「は、はい。わっかりました! にょき、にょき〜」 「じゃ〜〜わたしはこれで帰っちゃうね。朝から、ごめんごめん〜〜。……馬は使えるようになったよ〜」  片目の女はドアへと歩いた。 「ハッ……了解しました!」彼はついていった。  片目の女がドアを開けると、雨の音が強まった。  雨が降る外へ出ていく片目の女を見送った彼は持っていた棒を見下ろし、「のびろ」と念じてみた。  片手で握る柄から刃が出現し、真っ直ぐ進み続ける! 「……お、おぉぉ、おぅ、と、とまれぇっ…………!!!」  口に出す必要はなかったが、彼が言うと刃はピタリと止まった。 「……ほ、おぉ……お、おもてぇっ……こ、コレ、コレ、本物だぜ……」  足がふらついたとした彼は両手で棒をしっかりと保持した。  先程、片目の女が片手だけで軽々と握っていた棒から出現させた刃の長さは、いま彼が出した長さのゆうに二倍はあった。  …………先生……ホント、いろんな意味で、すげぇよなぁ……。  彼が「戻れ」と心の中で命じたところ、刃は手元の棒に吸い込まれるかのように消えた。  それによって、武器の重さは柄の部分だけの重さへと戻った。  ふぅ〜〜〜……誰も待ってねぇけど、行くかぁ……。  この……にょきにょき、も先生からもらったしなぁ……。  …………遠雷が響き、雨の音は彼を急かしているかのように響いていた。
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