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夏希side
「雪~」
脱衣所から、浴室に向かって声を掛ける
俺の同居人は、湯船に浸かると、よく沈む
だから、俺がこうして、様子を見れる日以外は、風呂にお湯をためない様にしている
そして、念のため、入浴剤は使わないようにしている
「………」
「雪?おい!返事しろ!」
「………」
これは……
ガチャッ
浴室のドアを開けると
浴槽のお湯の中に、雪が沈んでいる
両足を浴槽から出し、両手は湯船の中で、力なく広げられ、口元から空気の泡が上がってくる
一瞬凍りつき……
急いで湯船へと向かい、雪の上半身をお湯の中から上げる
「雪!大丈夫か?!」
生きて……息……
「……ケホッケホッ…夏……何?」
髪から大量の滴を垂らしながら、雪がこっちを見て普通に話す
はぁ……
何度見たって、あんな光景慣れる訳がない
最初は、バイトの入れ過ぎで、疲れて寝てしまったのだと思ったが……
そうだったら、まだ理解出来るけど……
どうでもいい
死なない
この2つは、雪の口癖だ
ほぼ毎日聞く
雪とは、高校3年の時に、初めてクラスが一緒になった
それぞれ、別の友達と遊んでいたが、同じ大学を目指してると知ってから、一緒に勉強したり、連絡を取り合ったりするようになった
雪の家は、母さんが1人で、遅くまで仕事だったので、時々俺の家に来て勉強もした
一緒に合格祈願をし、ずっと一緒に頑張った
合格発表の日、雪からの連絡がなく、俺は、落ちたのだと思った
ところが、学校に行き、信じられない話を耳にする
雪の母親が亡くなったと……
雪は、大学に合格していた
ソファーにもたれかかってる雪の髪から、雪の襟元やソファーに、ポツポツと滴が落ちていく
ドライヤーをかけてやりながら、物事を考える基準がおかしいと言ってやると、何かまた、死ぬとか何とか聞こえてきた
ドライヤーをかけ終わると、雪はすっかり眠っていた
雪は、大学に通いながら、常に2つ以上のバイトをしている
少しでも早く、奨学金返したいから
以前聞いた時、そう言っていた
両親が居ないから、不安や焦りがあるのかもしれないけど……
「あんなに頑張って受かった大学……もう少し楽しめよ……」
乾いた髪を撫でるが、熟睡している
「さて……とっ……」
雪を担いで、雪の部屋へと向かい、ベッドへと寝かせる
死なない……
死ねない……と言ってる様に聞こえる
母親の元に…行きたいのだろうか……
だとしたら、死にたい奴が、何の為に大学とバイトを、こんなになるまで頑張っているのか……
矛盾している様に見える
「……お前…何がしたいんだ?俺達まだ、18だって……分かってるか?」
布団をかけて、部屋を出ようとして、机の上の写真に気付く
雪の母親が、笑っている
雪の母親は、ほんとに忙しくて、2、3回しか会った事がなかったが、とても若くて綺麗で優しい人だった
まだ……40にもなってなかった
母親が交通事故に会ったのは、合格発表の3日前
母親が亡くなったのは、合格発表の前日
合格発表の日、雪は、唯一の親戚である叔父と共に、母親の葬儀の準備をしていた
パタン
雪の部屋を出て、ソファーに座る
2人きりで18年……
「……大きいよなぁ……」
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