0人が本棚に入れています
本棚に追加
私は、転勤族だ。
これまで自分の願いを持たずに、ただただ親に着いて来た。子どもだからそうするしかない。引っ越したくないと言ったって、親から離れることは難しいだろうし、別の生き方を考えるのも億劫だったから、文句を言わずに流れに身を任せていた。
だけど、今回初めてこの街から離れたくない、という気持ちが芽生えた。引っ越して来た日、ふらりと立ち寄った公園の丘の上から見える工場夜景がとても、とても、美しかったのだ。ずっと見ていられる景色だ、と感じた。家から歩いて徒歩十分で、こんなにも素晴らしい景色が見られる場所は、今までなかった。この景色だけは、手放したくない。
何にも執着してこなかった私が、初めて執着したもの。この景色を見ていたら、きっとこの街での暮らしはいいものになる……そんな気すらした。
引越しも転校も慣れっ子で、楽しみとか悲しいとか、そういった感情も得たことはなかったけど今、初めてこれからの暮らしにワクワクしている。毎日こんな景色が見られるなんて、最高だ。だから、もし、また引越しの話が出始めたら今度こそ、もう引っ越しはしたくない、と自分の願いを伝えてみよう。
初めて、手放したくないものを見つけたのだから……。
最初のコメントを投稿しよう!