チートもざまぁも追放も、この世界には全てが無い。

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「なあ、ジョーカー先輩」 「ふふん。何だね、荷物持ちの後輩くん」  俺は今、冒険者見習いとして、ジョーカーとアッサムの荷物持ちとして同行している。  今回の依頼は、廃墟となった教会の調査。何でも、怪しい人影が出入りしているから調査してほしいのだという。  アッサム曰く、こういう廃墟に盗賊のような犯罪者集団がアジトを構えている事がよくあるらしく、こういった依頼はそこそこあるのだそうだ。  そして周囲の偵察に出ているアッサムを待っている間、俺は暇つぶしにジョーカーに話しかけたというわけだ。  どうやら「先輩」と付けたのが相当お気に召したようで、彼女は満更でも無いドヤ顔を浮かべて返事をする。 「ここが異世界……っていうか、剣と魔法のナーロッパならさ、勇者とか聖女っているのかな!?」 「勇者なら居るね」 「マジで!? ッシャ!」 「なーにガッツポーズしてんの。もしかして、『俺は異世界転生したチート勇者!』とか考えてんの?」 「えっ、違うの?」 「なぁーに馬鹿なこと言ってんだか。ノゾミが勇者とか無い無い。勇者ってのはね、青みがかった黒髪と、海のような青い瞳をしている、この世界の人族、それも汎人にしかなれないの」 「そうなのか?」 「そういうモンなの。それがこの世界のルールだから。何故かそういう見た目の人が本人の意志とは関係無く、無駄に重くて辛い使命を抱えるハメになる、言わば呪いみたいなもんだってぐっさんが言ってたよ」 「へぇー……ん? 青みがかった黒髪……?」  つい最近そんな髪をしている人を見たような気がしたが、思い出す前にアッサムが偵察から帰ってきて、そちらに意識を取られたせいで結局思い出せなかった。 「おっかえりー。偵察終わった?」 「周囲に魔物の気配は現状無し、彼らと合流するまでここで待機で問題無いと思うよ」  今回は外部の協力者と一緒にこの依頼をこなす。  二人は顔見知りで仲が良いと言っていたが、どんな人か気になって、俺はアッサムに聞いてみることにした。 「なあ、アッサム先輩。今から合流する人って、どんな人達なんだ?」 「アッサムでいいよ。今から来る人達はね、普段は隣都市に住んでて、冒険者じゃないけどすっごく強いんだ」 「ちなみに一人はビックリするくらいイカれた善性持ちの汎人、もう一人は男運の無い魔族の町医者だよ」 「ジョーカー……間違っては無いけど、もっとこう、言い方ってものが……」 「間違ってないならいーじゃん。なんか二人共、ぐっさんに借りがあるとか何とかで、暇があればこうして協力してくれるんだ」 「へー。隣都市って、こっちに来るまで何日くらいかかるんだ?」 「今の時代は転移装置(ファストトラベル)で一瞬だよ。金はバカかかるけど」 「ファストトラベル!? そんなのあるんだ!」 「おっ。噂をすれば……」  ジョーカーの言葉に、俺も誰かがやって来た事に気が付いた。どうやら、件の二人が到着したようだ。  やって来たのは、男女のペアだった。  二人共似たようなプラチナカラーの髪で、顔つきもどことなく似ていたが、青年の方は透き通るような白い肌で、女性の方は健康的な褐色の肌だ。また、青年の方は瞳が青紫で、女性の方は光彩が角度によって朱色にも見える金という不思議な色をしていた。それに女性の方はこめかみ辺りから生えた角と、赤黒い翼があって、いかにもファンタジーな種族なんだろう事が伺えた。 「やあ! 久し振りだね、アッサム、ジョーカー!」 「お久しぶりです、ミハイルさん」 「相変わらず無駄に通る声だねー」 「そう言うアンタは相変わらずの生意気口ね」 「やぁやぁルキにゃん、助手の彼との進展はどーよ?」 「アイツはそんなんじゃ無いって言ってんでしょ、ったく……」  二人は先に知人であるアッサムとジョーカーに挨拶をしてから、整った美しい顔立ちに人懐っこそうな笑顔を浮かべて、俺にも挨拶をしてくれた。 「君が噂の新入り君だね! 私はミハイル、普段は呪術都市マギアで孤児院の経営をしているよ!」 「初めまして。あたしはルキフェル。ルキフェル・セラフィールよ。家名持ちだけど、かしこまらずにフランクに接してくれると嬉しいわ」  そうだ、思い出した。  このルキフェルという女性は、「勇者は世界を救うもの」について検索した時に見たキャラクターだ。覚えている。  やっと知っているキャラクターに会えて、何となく安心感を覚えた。 「ノゾミです、今日はよろしくお願いします」 「あら、どっかの誰かさんと違って、礼儀正しくて良い子じゃない」 「うっさーい。ボクはTPOと相手を鑑みてふざけてるからいーの」  そんな風に和気藹々と話ながら、俺達は廃墟の中に入った。  中は所々日が差しているが、薄暗く、奥の方は見渡せない。廃墟特有の退廃的な雰囲気に、俺は内心ワクワクした。 「ルキ、灯りを頼めるかい?」 「わかったわ。――est lumen luciora」  ルキフェルがそう唱えると、周囲に光の玉が現れる。光の玉は薄暗い廃墟内を照らし、空中にふわふわと微妙に上下しながら浮いていた。  現実ではあり得ないこの光景は、正に魔法そのものだった。 「すっげー……!」 「あら、初歩的なスペルなのに、まるで始めてスペルを見たような反応ね」  クスクスと笑われて、ハッとする。  そうだ。この世界ではスペルという魔法が存在するのが普通なのだ。  俺は慌てて言い訳を探し、しどろもどろになりながらも取り繕う。 「お、俺の住んでた所だと、あんまり馴染みが無くって……。なあルキフェル……さん!」 「ルキで良いわよ。知り合いは皆そう呼んでいるし。敬語も気が向いたらで構わないわ」 「じゃあ、ルキ! 俺もルキみたいに魔法が使えるかな!?」  ゲームの世界に異世界転生なんて、そんなのチート能力が無ければ始まらないと言っても過言では無い。  俺がまだ気付いていないだけで、とんでもない魔法の才能が――。 「う~ん……んん……ええと、気を悪くしないで欲しいんだけど、ノゾミから感じる魔力は薄くて……」 「え」 「残念だけど、あんまり才能が無いと思うわ」 「そ、そんなぁ……!」  悲しい事実を突きつけられてしまった俺は、理想からひどく乖離している現実のショックに耐えきれず、その場に崩れ落ちてしまった。 「畜生、畜生っ! チート魔法で俺TUEEEとかやりたかったのに……! またオレ何かやっちゃいました? とか言ってみたかったのに……! 無能力系の異世界転生も読むけど、自分がその立場になるのは違うんだよぉ!」 「アッハハ! 努力もせずにそんな都合の良い能力を手に入れられる訳ないじゃーん、バァーカ」 「ちょっと先輩、メスガキみたいな煽りしないでもらえます!? ガチ凹みしてる時にされると結構メンタルにクるんですけど!」 「ざぁーこざぁーこ♡ 初歩スペルも使えない魔力無しのザコこぉはぁーい♡」 「くっそおおおおおおお!! 絶対いつか分からせてやるからな!!」 「出来るモンならやってみなー」  ジョーカーはべぇ、と舌を出して俺をおちょくってから、ケラケラを笑う。  こっ……こんのメスガキ系キャラめぇ……! 俺より二歳年下の癖に……!  絶対にいつか見返してやると決意して、俺は立ち上がった。
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