或る夜

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二日酔いを理由に有休を取るとか情けないことは 意地でもしたくなくて駅近くのドラッグストアで 買った二日酔いの薬を服用しつつ どうにか午前中の仕事は終わらせた。 具合が悪いなんて悟られないように 内心なるべく自然に振舞うことに必死で…… それは俺のなけなしのプライドだった。 (……あ) つい斜め前の上司を目で追いそうになって 目を逸らしたのは朝から何度目だよ、バカ。 目が合えばきっとまた どうして俺じゃないのか?と 口から出そうになるだろうが。 「笹谷君、コレを総務にお願いできるか? ついでの時で構わないから」 「ハイ、分かりました」 (……!) なるべく見ようとしなくても 声だけはどうしようもない。 ハッキリ言われたんだろ。 『俺のことは諦めろ』と。 ……そう簡単に出来るなら悩みはしない。 どれだけ貴方のことが好きだったと思ってるんですか? ドス黒い沼に嵌っていきそうになる自分を 今にも切れそうな皮一枚で必死に繋ぎ止めているのに。 女ならまだしも他の男に取られるとか 自分が情けなさ過ぎて飲まずにいられなかった。 それが…… 昨夜不覚にもあそこまでの深酒をした理由だった。
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