或る夜

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失恋した相手は、直属の上司。 見た目の良さもさることながら 仕事に対する実直さ、モノの考え方に酷く共感できる人で、 俺が軽口を叩いでもサラリと受け流す器も持っている。 ―――もうダメだろ、こんな人。 尊敬が恋愛感情に変わるに 時間が掛かる訳がない。 社内恋愛とか面倒だから自分的には無いなとか 安直に思っていた学生時代の俺が今の自分を見たら それ見たことかと笑うだろう。 (仕方ないだろ……好きになったもんは) 好きだと何度も伝えたがその度にかわされて とうとう昨日、恋人が妬くからもうその言葉は 俺に使うなと最終通告を受けた。 ショックだった。 でも――― いま思えば、その言葉を俺は多分少し前から 待っていたんじゃないかと思う。 これでやっと終止符が打てる、と。 俺にだってプライドがある。 もう無理だと分かっていながら 決定的なきっかけが掴めずにいる自分が嫌だった。 酒を飲んだところで何もと思いつつも 静かに飲みたくて初めて行った店。 どうしても解せないのが 酒に強い自分が意識が飛ぶほど酔っていたらしいこと。 確かに一人で飲んでいたはず。 しかもそういう類の店(・・・・・・・)じゃなかった。 どういった経緯かは分からないが ……ホテルまで行った相手も分からないなんて 絶対にありえない……なのに。 …………実際、 完全に記憶が無いから説得力の欠片もない。 誰かってことはどうでもいい。 過去を正直に言えば、後々面倒ごとは御免だから 会社関係者とは最後まで関係を持ったことはないが、 プライベートは今まで行きずりの相手となんて 男女問わず数え切れない。 互いに良い大人である以上、 モラルがどうのとか他人に言われる筋合いはないから。 昨夜の相手は男みたいだが、 ……かつてお目にかかったことのない ご丁寧な文言を見る限り変な男じゃないはず……多分。 万が一再会しても向こうも一夜限りだと割り切ってるだろうし 心配するまでもないだろう。 「…………ハァ」 当分恋愛なんか絶対したくない。
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